第101話 夕食前
「アぁルマーク!!」
レイラが立ち去ったあとすぐに、ネルソンが後ろから、両腕でアルマークの首を絞めてくる。
「お前ってやつはぁ!!」
「な、なんだよ」
アルマークがネルソンの腕を振りほどくと、今度は前から抱きついてきた。
「よくやったぁぁ!!」
「えぇ?」
「レイラと一緒に夕飯が食えるなんて! お前、すげぇ! 勇者だな! 度胸あるぜ、感動した!」
「な、何が」
「ほんとにすごいよアルマーク」
モーゲンもアルマークに尊敬の眼差しを向けてくる。
アルマークは、冬の屋敷でもモーゲンからこんな目を向けられたことはなかった気がする。
「あのレイラを、あんな自然に夕ご飯に誘うなんて」
モーゲンは首を振る。
「僕にはできない。尊敬するよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
アルマークは言った。
「二人とも、むしろさっきはレイラのこと嫌がってたじゃないか。なんでそんなに喜んでるんだ」
「ばっか、お前」
ネルソンが笑顔で首を振る。
「無愛想なレイラはただの怖い女だけど、愛想のいいレイラとか、最高じゃねぇか!!」
「そうだよ、あんな美人が笑顔で一緒にご飯食べてくれるんだよ!」
モーゲンも言う。
「生きててよかった」
「えぇ?」
アルマークは益々困惑する。
「レイラ、別に笑顔じゃなかったぞ?」
「普段の仏頂面に比べたら、あれはもはや満面の笑みだろうが!!」
いつもよりほんの少しだけ柔らかい表情だったような気はするが、満面の笑みどころか笑顔は一切なかったはずだが。
アルマークは首を捻る。
「そもそも、さっきからきれいきれいって言ってるけど、レイラがそんなにきれいかな。ウェンディの方がずっとかわいいじゃないか」
「これだから」
ネルソンが呆れたように首を振る。
「お前も言ったようにウェンディは『かわいい』だろ? そんでレイラは『きれい』じゃねぇか!!」
「その違いが分からない」
アルマークは首を振った。
「僕はウェンディの方がいいと思うけどな」
それにすごく優しいし、と付け加える。
「優しいとか、この際どうでもいいんだよ! 今話してるのは、顔のことだろ、顔の!」
ネルソンの言葉に、やはり納得がいかないアルマーク。
「ウェンディだって顔かわいいと思うけど……」
「なんだよ、アルマーク。さっきからウェンディ、ウェンディって。そんなにウェンディのことが好きなのか?」
そう言われて、アルマークは
「いや、そういう訳じゃないけど……」
と口ごもる。
「まぁとにかく、お前の手柄だアルマーク! 凄いぞ、今日の夕飯は」
ネルソンが興奮して練習用の剣を振り回す。
「危ないぞ、ネルソン」
アルマークが持っていた木の棒でそれを受け止める。
と、モーゲンが何かに気付いて、「あっ!!」と声をあげた。
「どうした、モーゲン」
ネルソンの言葉に、モーゲンは深刻な顔で二人を見る。
「……今日の僕ら、レイラ入れて四人だよね」
「ああ、そうだな」
「ってことはだよ。……誰が、レイラの隣に座るの?」
その言葉を聞いたネルソンの顔が強ばる。
「そ、それは大問題だな」
「え? 何が?」
「でも、隣も緊張するけど、目の前も緊張するよな!」
「そうだね!」
「二人ともさっきから何言ってるんだ?」
「モーゲン、俺はやっぱり目の前がいい。あのきれいな顔を眺めながら食べる夕飯は格別かもしれない」
「えぇ? じゃあ僕がレイラの隣? 照れるな。ちゃんと食べられるかな」
「ネルソン? モーゲン?」
「大丈夫だ。お前ならやれる。自分を信じろモーゲン! この学院で初めてレイラの隣に座って夕飯を食った男の栄誉はお前に譲ろう」
「うう、そんな称号、僕には重すぎる。耐えられるだろうか……」
ネルソンとモーゲンの間で勝手にどんどんと話が進んでいく。
アルマークは諦めて二人に全てを任せることにした。
「まぁ何でもいいけど、二人も嬉しいのなら誘ってよかったよ」
「お前のそういう冷静なところ、すげぇよな……。まあだから平然とああやってレイラを誘えたりするんだろうけど」
ネルソンは言いながら、まただんだんと興奮してきたようで、剣を振り回し始める。
「うおー! アルマーク!」
「だから、危ないって」
ネルソンの打ち込みをアルマークが持っていた棒でいなしていると、たまたま通りかかったマイアがその光景を見て、「ひっ」とおかしな声をあげた。
「あ、あんたたち!!」
マイアに怒鳴られて二人は動きを止める。
「そんなところでチャンバラごっこしてるんじゃないよ! 怪我したらどうするんだい!」
「はーい」
二人は返事をして、打ち合いをやめる。
「とにかく、夕飯が楽しみだ。二人とも、遅れるんじゃないぞ!」
満面の笑みで二人に言うネルソン。
「うん!」
「あ、ああ」
そうやって三人は、夕飯までの時間、異様な興奮状態で過ごしたのだった。
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