第66話 冬の屋敷
「うわ、うわ、うわー!」
テーブルに並べられた料理に、モーゲンが歓声をあげる。
「なんだこれ! すごいよアルマーク! こんなにたくさん料理があるのに、どれも全部美味しそうだよ!!」
「あ、ああ。そうだね」
あまり食に関心のないアルマークはとりあえず頷くが、モーゲンの極限まで高まったテンションは一向におさまらない。
「これ、何だろう! このいい匂いの肉、何だろうアルマーク!」
「ぼ、僕に分かるはずないだろ」
「うわー! 見てよこのなんだかわからないきれいな色の料理! 見てるだけで涎が止まらないよ! これ何の料理だろうアルマーク!」
「だから僕に分かるはずな」
「うごー! もう我慢できない! ウォードさん、もう食べていいですか! 僕もう食べちゃっていいですか!」
「落ち着け! モーゲン、ちょっと落ち着け!」
無邪気にはしゃぐモーゲンを、ウォードは楽しそうに見つめる。
「モーゲン殿、わたくしどもの料理をそんなに誉めていただいてありがとうございます。ウェンディお嬢様が間もなく降りていらっしゃいますので、どうか今しばらくのご辛抱を」
ウェンディの名前を聞くと、さすがのモーゲンも少しおとなしくなる。
「……ウェンディ、大丈夫かな」
「そうだな。心配だな」
アルマークも頷く。
ミレトスの「冬の屋敷」の大きなホール。
に、アルマークとモーゲンの目には見えたが、単なる食事のための部屋なのかもしれない。
そこで今、二人は大きなテーブルにところ狭しと並べられた夕食の料理を目の前にして、ウェンディを待っていた。
二人が心配しているのには理由がある。
ミレトスで白馬車を降りて、街の人に道を尋ねながら、二人は郊外の小高い丘の上にそびえ立つバーハーブ家の屋敷にたどり着いた。
最初は案の定、門前払いされそうになった。
しかしウェンディの名前だけでは無理だと判断したアルマークが、ウォードと二人の使用人の名前を出すと、門番が渋々といった感じでリーサという名の、休暇の初日にウェンディを迎えに来た女性の使用人を呼んできてくれた。
訝しげにやって来たリーサは、アルマークの顔を見て、口を押さえて目を見開いた。
「まあ! アルマーク様! まあ、大変! どうしましょう!」
早くお嬢様とウォード様に連絡を、とリーサが大慌てで言うと、ようやく門番たちの動きが慌ただしくなった。
ご案内します、と言う門番の申し出を、申し訳ないので、と断り、
「目の前のでっかい建物に行けばいいんですよね」
と言って歩き出す。
「着いたね」
「ああ、着いたな」
二人で意味もなくそんなことを言い合って笑いながら広い中庭を歩く。
そして、屋敷の入口の大きな扉の前の階段を数段上がったときだった。
目の前の大扉が突然大きく開け放たれた。
中から、信じられない、という表情をした少女が飛び出してくる。
「アルマーク! モーゲン!」
「あ、ウェンディだ!」
モーゲンが叫んだ時にはもう、涙で顔をぐしゃぐしゃに濡らしたウェンディに二人まとめて抱き締められていた。
「ウェンディ、僕ら遊びに来たよ。迷惑じゃないかな」
「手紙はもらったんだけど、ウェンディに会いたくて勝手に来ちゃったんだ。ごめん」
ピントのずれたことを口々に言う二人に、ウェンディは声も出せず、二人を抱き締めたまま何度も何度も首を振った。
「結構泣いてたもんな。元気になってるといいけど」
アルマークの言葉に、モーゲンも頷く。
「ちゃんと食べてもらおう。元気になるにはまずしっかりとした食事からだよ」
そこへ、ウェンディが現れた。
まだ両目は赤いものの、いつもの快活な笑顔を浮かべている。
「お待たせ、二人とも。お腹すいちゃったでしょ?」
その姿に、アルマークとモーゲンは顔を見合わせて、笑顔で頷いた。
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