第13話 クラスメイト

 クラスの半分くらいの子がアルマークの机のまわりに集まってきている。

 みな、この独特の雰囲気を持った転入生が珍しかったのだろう。口々に質問してくる。

「アルネティ王国って聞いたことないけど、どこにあるの?」

「姓がないってことは平民なんだよね。お父さんは何やってるの?」

「何で来るのが二年も遅れたの?」

 アルマークは面倒がらずに笑顔で一つ一つ答えていった。

 アルネティ王国は北の王国のひとつ。アルマークはそこで生まれたのだ。

 正確には、黒狼騎兵団がそこに駐屯しているときに、ということになるのだが、もちろんそこまでは言わなかった。

 父の職業は、旅の鍛冶屋、ということにしておいた。

 入校が遅れたのは、父と共に遠い国にいたためだ、とも。

 鍛治屋さんって何を作ってるの?と聞かれ、深く考えもせずに「剣だよ」と答えると、不思議そうな顔で「剣なんて売れるほど使うことがあるんだ」と言われてしまい、やはり北の国々との違いを痛感するのだった。

「みんなのことも教えてよ」

 アルマークの求めに応じ、隣の席のウェンディが立ち上がった。

「では、隣どうしになったご縁で、私からアルマーク君にみんなを紹介します。えーと……」

 ウェンディは笑顔でてきぱきと、集まってきたクラスメイトたちを紹介してくれた。

 ガライ王国西部の村の木こりの息子、モーゲン。大きな丸い体をした人懐っこそうな少年だ。

 ガライ王国の隣国、マイクス公国の騎士の従者を父に持つというネルソン。気の強そうな顔立ちをしている。

 触れたら壊れてしまいそうな華奢な体つきの少女は、中原の大国フォレッタ王国の王立音楽院の楽士を両親に持つリルティ。

 にこにこと人の良さそうな笑顔でみんなの話を聞いているそばかすの少女は、大陸南部の小国ラング公国の農家の娘ノリシュ。

 などなど。

 ほかのみんなをウェンディが紹介してくれたところで、モーゲンがウェンディを手で示し、

「そしてこの子がウェンディ。ウェンディ・バーハーブ。ガライ王国有数の大貴族、バーハーブ家のご令嬢さ」

 と紹介すると、ウェンディは「大げさだよ」と顔を曇らせた。

「あとこっちに来てないのはね……」

 モーゲンが言いかけたとき、後ろから「おい、お前ら」と声がかかった。

 険しい顔つきの大柄な少年が、同様に大柄な少年二人を従えてアルマークたちを睨んでいた。

「次は魔術実践の授業だぞ。いつまで騒いでるつもりだ。さっさと移動しろよ」

 魔術実践?いきなりそんな授業があるのか。アルマークの胸は高鳴った。

 そんなアルマークを見て、大柄な少年は、ふん、と笑った。

「おい、新入り。二年もたってから来たからにはそれなりに魔法は使えるんだろうな。こっちは素人のお守りは御免だぜ」

「……?」

「クラスにまた一人平民の子が増えちまった。1組や3組の連中にバカにされちまう」

 吐き捨てるように言って、きょとんとするアルマークを尻目に、三人は肩をそびやかして去っていく。アルマークはモーゲンを振り返る。

「あれ、誰……?」

「トルク・シーフェイ。僕と同じガライ王国の出身だよ。ま、僕は平民、向こうは貴族の息子だけどね。貴族も平民もこの学校のなかでは平等なんだけど、あいつはいつも自分が貴族だってことを鼻にかけてる嫌なやつなんだ。確かにあいつは魔法も武術も得意だから、何も言えないけどさ……」

 モーゲンは丸い体を縮めるようにして、ため息をついた。

「武術……そんな授業まであるんだね」

「教養科目だからね。やらないといけないんだ。僕は苦手だけど。トルクはこのクラスじゃ二番目に強いんだ」

「二番……? じゃあ一番は?」

「クラス委員のウォリスだよ。彼は別格だから。さ、僕らもそろそろ行こう」

 モーゲンに促されて、アルマークも立ち上がった。




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