第14話 灯

 魔術実践場は、校舎から渡り廊下を渡った離れにあった。

 天井は高くとられており、広々とした空間ではあるが、解放感は全くない。

 窓という窓が全て黒いカーテンで覆われているからだ。

 ランプの灯だけが場内を照らす中、アルマーク達は整列して教師を待つ。

 みな緊張した様子もなく、がやがやと話し合っている。

 アルマークは列の一番後ろに立っていたが、先ほど絡んできたトルクが彼のほうを振り返り、取り巻きに小声で何か言っているのが見えた。

 じきに、青白い顔のやせぎすの教師が入ってきた。灰色のローブをまとっている。

「……始めよう。まずは各自、杖を使わずに自らの魔力で灯を」

 教師の言葉と同時に、ランプの灯が消え、カーテンのごくわずかな隙間から差し込む微かな日の光以外、暗闇に包まれる。それとともに場内の雰囲気が一変した。

 さっきまで賑やかだった学生たちが一斉に静かになった。かと思うと、場内にはそれぞれの深い呼吸音だけが響く。

 アルマークが息を殺して成り行きを見守っていると、やがて、ぽつ、ぽつ、と小さな炎が学生の手のひらに灯り始めた。

 灯の魔法だ。

 アルマークは思った。

 旅の途中に出会った魔術師もよく使っていた。

 その魔術師は確かこの学院の卒業生ではなかったが、実践経験は豊富だった。

 しかし、その時に彼が使ってみせた灯の魔法の炎に比べ、今、学生たちの手に灯っている炎のなんと繊細なことだろう。

 それぞれの炎の大きさは全く変わらず一定を保ちながら、彼らの手のひらの上、ほんのすれすれのところで微動だにせず浮いている。

 あのはるか年長の魔術師よりも、このわずか11歳の学院生たちの方が高度な技術を持っているということだ。

 アルマークは今さらながらに理解した。

 彼らは単なる無邪気な子供達などではない。

 それぞれが、この学院に入ることを許されるに値する才能を持った、魔法の天才たちなのだ。

 やせぎすの教師は、学生たちの間を無言で回りながら炎の様子を確かめているようだった。

 時折、何人かにぼそぼそと何かを告げるのは、助言を与えているのだろう。

 彼は、アルマークの前まで来て、その手から何も発されていないことに気付いて足を止めた。

「……ああ、君が」

 教師はかすかな声で呟き、小さく頷いた。

「話は聞いている。放課後、私のところに来なさい。補習をしてやろう」

 アルマークは声を出すのが憚られて、返事の代わりに頷いた。

「よし、そこまで」

 教師がパン、と手を叩くと、学生たちの炎が一斉に消え、それと同時にランプの灯が点った。どうやらランプの灯も魔法によるものらしい。

「みんなよく集中できているな。それとも、転入生の前だから無様な真似はできないと思ったのかな……?」

 教師は言いながら、薄く笑った。

 ランプの灯に照らされる学生たちの様子はそれぞれだ。

 涼しい顔をしている者もいれば額に汗を浮かべている者もいる。肩で息をしているのはモーゲンだ。

「よし、杖を使う。それぞれ取りなさい」

 教師は隅に置かれた木箱を指差した。

 学生たちが一斉にそちらに歩き出したので、アルマークもそれに従う。

 木箱のなかには、アルマークの腰までくらいの長さの杖が無造作に数十本入れられていた。

「練習用の杖なの」

 いつの間にか近くに来ていたウェンディがそっと教えてくれた。

「次は何をやるの」

 小声でそう尋ねると、ウェンディはアルマークにも杖を手渡してくれながら、

「多分、風か石刻みだと思う。イルミス先生の気分次第」

 と教えてくれた。



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