第12話 ウェンディ

 フィーアは教室へ向かいながら、手際よく簡潔に初等部について教えてくれた。

 初等部は三年制で各学年三クラス、一つのクラスは15人。

 初等部では基礎的な一般教養を学びながら、初歩の魔法の技術と知識とをあわせて身につける。

「三年生ともなれば初歩とはいえ、もうみんなある程度の魔法を使いこなすわ。でもあなたは焦る必要はないからね。学院長から、あなたには素晴らしい才能があると伺っています。必ず魔法を使えるようになるから、じっくりと取り組んでいきましょう」

 フィーアの言葉に、アルマークは、はい、と素直に頷いた。

「今までは15人だったから、二人ペアを作るとき必ず誰かが余ってしまったけれど、これからは16人になるからよかったわ」

 フィーアはそう言いながら笑った。

 校舎の三階。

「ここが教室よ。さ、入って」

 促されるままにドアを開ける。

 明るい日差しが差し込む、簡素な作りの教室だった。

 アルマークが中に入ってくるのを15人の生徒たちが興味津々といった様子で見守っている。

 アルマークは人前に立つのには慣れていた。

 中原を旅していた頃、旅芸人の一座に加えてもらい、天才少年剣士という触れ込みで剣を振るったこともあった。

 フィーアの横でみんなの前に立ち、ぐるり、と教室中の顔を見回す。

 今日会ったレイラの顔もそこにあった。

 僕の席は……と見ると、教室の右後ろに空席を見つけた。

 隣の席の少女と目が合う。

 こちらを見てにっこりと微笑んでくれた。

 とても気品があるのに笑顔は人懐っこい印象を与える、不思議な魅力のある女の子だ。

 あの子も貴族の娘だろうか、とアルマークは朝のレイラの様子を思い出しながら考えた。そのレイラは窓際の席でつまらなそうに窓の外に目をやっている。

「今日からこのクラスの16人目の仲間になる、アルマーク君です 」

 フィーアがアルマークを紹介する。レイラが窓の外から目線を戻し、ちらりとアルマークを見た。

 フィーアに促され、アルマークも簡単に自己紹介した。

「アルネティ王国から来ました、アルマークです。この学校のことも、この島のこともまだ何も分かりません。これからよろしくお願いします」

 頭を下げると、パチパチと思ったより盛大な拍手が上がった。

 うん、悪くない、とアルマークは思った。

「アルマーク君はご家庭の事情で入校が二年遅れてしまいました。分からないことがたくさんあると思うので、みんなで助けてあげてね。えーと、君の席は……」

「先生、ここです」

 さっきアルマークと目が合った少女がすぐに手を挙げてくれた。フィーアは軽く頷く。

「ウェンディの隣ね。アルマーク君、あそこの席に座って」

「はい」

 アルマークはウェンディと呼ばれた少女に、よろしく、と声をかけて席についた。

 ウェンディも笑顔で「よろしくね」と返してくれる。

 一時間目がそのまま始まった。

 フィーア先生の受け持つ、世界概論だ。

 まだ教科書の届いていないアルマークは隣の席のウェンディに見せてもらいながらの授業となった。

 この世界を作った大なる4とその間を埋めた中なる8、そこから派生した小なる16とその眷族について。

 アルマークには初耳の話ばかりで、これがどう魔法と結び付くのかもよく分からない。眉間にしわを寄せたままの一時間となった。

 授業が終わり、これは後で誰かに教えてもらわないとまずいな、とアルマークが思っていると、彼の机はあっという間にクラスメイト達にとり囲まれてしまった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る