第4話 最後の審判
●
外に出ると、待ち構えていたように男たちが立っていた。
男たちを従えるように立っている、羽根つき帽子の男が汗を拭きながら「ヴェロニカ様! 」と喜色満面で叫ぶ。
「よかった、御無事でありましたか! 」
「ええ。トーマ・ペロー外交長官。ご子息のコナンもご一緒されてるのね。わたくしは見ての通りです」
「それはよかった! 」
初老のフェルヴィン人の男は、しかしそれ以上近づいてこようとはしなかった。後ろに従えている息子だという男の顔色は悪い。その横で、縮こまるようにして一人の小柄な女性が立っていた。
「お義姉さまにお怪我などさせていませんでしょうね」
「ええ、それはもちろん! 」
「あなたに訊いたのではありませんよトーマ。コナンに訊ねたのです」
「ああ、ええ、皇女様! 皇太子妃殿下はご無事です! 」
「そう。でしたらすぐに、お義姉さまとともにこちらへ来なさい」
「そ」口を開いたコナンの言葉をトーマが遮った。
「それはできかねますなぁ。皇女殿下がこちらへいらしてくださいませ」
羽帽子の男は、目を細くして皇女を見つめて言った。
「……いいえ。その必要はないかと存じます」
ヴェロニカの前に、サリヴァンが割り込むように立った。
「皇女殿下。あのトーマという男の後ろにいる男たちに、見覚えがございます」
「ああ、確かに……」
ジジはにんまりと唇を曲げた。
「あれ、ポンコツの人さらいどもじゃあないか。皇女さま、あいつら傭兵ともいえない薄汚いチンピラだぜ。やあ! ざるくぶぁふぇんどるば! 」
ジジが最後の言葉を言った瞬間、羽帽子の男の顔がみるみる青黒く染まっていく。
「きさま、なんということを……! 」
呆れた顔で、サリヴァンはぷかぷか浮かんで舌を出しているジジを見上げた。
「……今の、なんて言ったんだ」
「ボクってほら、育ちが悪いからさァ、こういう言葉しか覚えてないんだよねェ」
「しょうもねえ」
「役立つ教養のひとつさ。だろ? でもおかしいな。あいつらなら、もっと反応するのに。知らないオッサンからしかリアクションがないなんて、つまんないよ」
「ああ。みょうに表情が浮ついてるというか、覇気がないというか……」
「トーマ・ベロー。質問に正直にお答えなさい」
皇女の瞳が、羽帽子の男の白い眉毛に半分埋もれた瞳を射抜く。
「あなたが、城にならず者たちを招き入れましたね? 」
嘲るような笑顔に変わった男の細く尖った視線は、ヴェロニカ皇女を見返さずに、その前に立つサリヴァンの瞳を冷たく一瞥した。
「はは! なんとまぁ、まだそんなことをおっしゃっているとは。いいえ、違います。トーマはそのような恐ろしいことはしておりませぬ」
「ヴェロニカ様! お逃げください! 」
声を上げたのは、トーマの息子だという男だった。父にはあまり似ていない、細面の賢そうな青年だ。彼はそのようすで、心から皇女を案じているのだとわかった。
「それはもう、父ではない! 」
「そうですヴェロニカ様! 逃げてください! 関わってはなりません! 」
モニカも重ねて叫ぶ。「あなたに何かがあれば、わたしはグウィンに申し訳が立たない! 」
「残念ですわ、トーマ。父の友。栄えある忠義者。わたくし、そう信じておりましたのに」
ヴェロニカがマントを脱ぎ捨てた。
「おやおや、粛清ですか? ヴェロニカ殿下。そんなどこの誰とも知れぬ外国人を使って? 皇女である、あなた様が? 」
「それはあなたのことを仰ってるのかしら。こんな恥知らずだとは知らなかったわ」
「フフ……すくなくとも私は誰とも知らぬ外国人を引き入れたわけではございませんので。彼らこそが、本来の私にとっての朋友でしてね」
トーマはかぎ針状に曲げた両手の指を、おもむろに口に押し込んだ。指先の爪が内側から頬肉を抉っていく。頬肉を内側から毟るようにして、男は自らの顔を指で大きく傷つけた。その手は次に、自らの下目蓋にかかる。どんどん元の面影を失くしていく顔面の、むきだしの肉が奇妙に揺れる。
ぶるりと。まるで身震いをするように。
笑みの形に露出した歯列に、早戻しのように肉が戻っていく。再生した唇の皮膚は、笑みの形を保っていた。
彫りの深い、浅黒く日焼けした若々しい顔立ちに、もとの初老の紳士の名残りは無い。
「あなたは誰」
「ただの亡者ですよ。墓守の姫」
声すら違う。異国の響きを含んだ瀟洒な楽器の演奏のように、耳通りの好い声だった。
「わたくしはあなたを知らない。けれど、あなたもわたくしを知りませんね」
「姫……虚勢を張るのもここまでですよ。そこにいる魔法使いの正体とその真実を、ご存じないのですか? 」
ヴェロニカ皇女は青い目をすがめる。
「それは、『陰の王』直々に我らに差し出された――――」
「あら、そうですの? 」
「……なんですって? 」
「まぁまぁまぁ」
皇女は上品な笑い声を響かせた。
「惑わし、甘言……? ほかに口にすべき言葉があるのではなくって? この期に及んで、まだるっこしい殿方は好きになれなくてよ。話題が暴力的で、下品で、悪趣味な殿方なら、尚なおのこと。このヴェロニカを口説きたいのならば、その顔に、」
ヴェロニカは、前に倒れ込むようにして踏み込んだ。
その一歩は、驚くほど広く、早い。皇女の筋肉が隆起する。風に揺れる柳のように、男の体が曲がった。
「このわたくしの拳を、まず受け入れることね! 」
男の笑みがぐしゃりと崩れ、噴き出した汗が拳圧に飛沫になって飛び散る。男はよろめきながらなんとか体勢を整え、頬を流れる汗と血液の混合物を指先でふき取った。
「……話に訊くより、ずいぶん野蛮な姫君だな。脳ミソが飛び散りそうだ」
「よく避けました。ウフフ……自信を失いそうですわ」
「顔が笑ってるぜ。お姫さま」
「ふふ……少し鬱憤が溜まっておりますのよ。この試合は、好い気分転換になりますわ。加減がいらないのなら、なおさらでなくて? いいえ、殺す気はありません」
「……こちらには人質がいるんだぞ」
「怯えないで。小さなひと。わたくしはあくまでもフェルヴィンの皇女として上品に……あなたが質問に答えたくなる場を整えているだけ」
トン、と皇女は爪先で軽くステップを踏んだ。
右足を軸に、ダンスをするように肘を上げて上体を傾ける。長い金色の髪が白い頬を撫で、背後に流れる。刃金色の瞳だけが笑っていない。
「本性を明かすなんて、悪手でしたわね。わたくし、おばけは平気なの」
皇女は一歩、男に近づく。
「……だから安心なさい、コナン。仇は取ります」
「ヴェロニカ様……」
「家族を亡くす以上に怖いものなんて無くってよ! そうでしょうッ! 」
「皇女を殺せェ! 」
男は気炎を振り絞って叫んだ。
皇女の長身に、武器をかかげた傭兵たちが大波のように群がろうとする。
そして次の瞬間、ごぶりと腐臭に濁った黒い血を吐き出した。
「きゃあ! 」
モニカの悲鳴がヴェロニカの耳に届く。その身に凶刃が向けられたわけでは無かった。サリヴァンが守るようにしてモニカの前に立っている。彼女が驚いたのは、サリヴァンが「念のため」と、隣のコナンを締め上げて昏倒させたからだ。ヒースがすかさず安全圏へと回収していく。
「殿下、こちらはお任せください。ご存分にどうぞ。ジジ、今日だけの解禁だからな」
「やったね。久々に本領発揮できるじゃあないか」
ジジのコートが、風も無いのに大きくはためいた。
「死体なら、手加減なく殺してもいいもの! 」
感情を失った死体たちのなかに、困惑と警戒が広がっていた。
痙攣して思うように動かない手足を、不思議そうに眺めて立ち止まっているものもいる。
そうして死体たちは次々と目から口から鼻からと血を噴き出し、根が絶たれた樹木のように倒れて動かなくなっていった。
「何だ! 何がおこっている! 」
「アンタはね、とくに運が悪かったんだよォ。だって、ボクがいたんだから」
街灯にも照らされない、漆黒の空を背景にして、白い肌が浮いて見えた。黒い擦り切れた外套の裾が、大きく翼を広げている。
「あなたの相手はわたくしです! 」
「ぶごほォッ」
呆ける男の頬に拳が突き刺さった。倒れ込んだ地面に、ふと降り注ぐものがあることに気が付く。
「黒い、雪……? 」
「ボクっていう魔人の性能は、対生物特化型なんだよネェ。気を付けないと殺しちゃう」
魔人の声は、甘い艶を含んで空気に溶けていく。
「生きていたって、死んでいたって、そんなのはボクの前じゃア変わんなァい。ボクには命の弱点がァ手に取るようにわかるよォ。ココロも、カラダも、とっても簡単サァ――――壊れやすくて、すぅううぐトロトロにィイイとけるもんねェェエエエ! フフフ――――ハハハ――――ケヒヒ……キヒヒヒヒヒヒ――――」
その語尾は奇妙に歪みながら、闇に引き伸ばされて間延びしていく。
おもむろに、男はがふりと口から泡を吹いた。不快な耳鳴りが男を襲い、網膜はいつしか地面の小石を見つめてピクリとも動かなくなっている。
「? ??? ――――!? 」
陸にいてして溺れている自分が信じられなかった。体中の穴から、得体の知れない液体が逆流している。
男は最後の力で吠えた。
「――――
「ゾクゾクしちゃう誉め言葉だね」
闇に、金の月が二つ浮かんでいる。
ピチャリと、泥をはだしが踏みつける。外套のすそをつけ、ジジはしゃがみこんでその顔を覗き込んでいた。
死者たちの二度目の死は、静かに泥のような闇に沈んでいった。
●
「モニカお義姉様、ご無事でよかった」
「あなたも」
ヴェロニカはぐっと腰をかがめて、モニカと抱擁した。モニカはくすくす笑いながら「少し痛いわ」とその肩を叩く。
屍人の男たちのなきがらは、そのあと黒い炭のようになって崩れた。
「ああいう不吉なものは、あまり見えるかたちで残ってもいいことないだろ。早めに土に還ったほうが世のためなんだよ」と、ジジは言った。
「サリヴァン」
ヴェロニカ皇女はサリヴァンに向きなおり、丁寧に礼を述べた。
「あなたたちのおかげで、お義姉様をお救いできました。あの戦いで気が付いたのです。あなたたちはどうやら、わたくしが思っていた魔術師の範疇からは、外れたところにいるようだと。……うまくは、言えないのですが」
皇女の視線は、サリヴァンの背後で欠伸をしているジジにも向けられた。
「そしてわたくしの眼には、彼のその力が、語り部とはまるで違うと感じます。いまいちど、お願いいたします。我らがアトラス王家に降りかかったこの災厄、わたくしとともに戦ってくださいますか」
皇女の眼からは、焦りが消えていた。ほんとうは、自分がどうするべきかを分かっている眼だ。
「殿下。私どもの力はご覧になったかと思います。どうかその使命、このサリヴァンに預けていただけないでしょうか」
サリヴァンの言葉に、皇女はそっと目を伏せた。
彼女の家族は、皇女が逃げ延びることを望んでいる。先ほどとは違い、義姉も助け出した今、彼女の中での選択肢の天秤は片方に大きく傾いていた。
「そこのヒースは、魔の海をも超えることができる航海士です。かならず我が国に送り届けるとお約束いたします。そしてサマンサ辺境伯家をお訪ねください。かならず我が父と曽祖父コネリウスが、アトラス王家の危機を救う手立てとなるでしょう」
皇女はしばし瞼を閉じた。
「……感謝いたします」
それが答えだった。
サリヴァンもまた、レンズの下で目を伏せた。
(ずっと隠してきた出生を、こうして口にすることになるとはな……)
「サリー」
サリヴァンの肩を叩き、ヒースが言った。
「ことを起こすなら早いほうがいい。たぶん市民のほうが辛抱できなくなる」
「そうですね」皇女も頷いた。
「市民が城へ詰めかけているころです。無用な被害が出ないよう、彼らを止めなければ」
出航準備をするヒースとモニカを船着き場に残し、三人は東の城下へ向かうことにした。
街には、奇妙な熱気が漂っていた。
男たちが集まり、何かを相談している。女性たちは子供を家に入れ、不安げに働いていた。
ジジがコートの端を黒い靄に変え、あたりから情報を仕入れていく。
「城に勤めてる人の親族が中心になって、城に乗り込んでみるつもりらしいね」
「西の街でこうなら、城のある東の城下はすでに市民が動き始めているでしょう」
皇女の予想通り、門前はすでに市民であふれていた。鐘楼に立つアルヴィン皇子の噂はすでに広まり、親族や親しい人が帰っていないという事実が、不安を怒りに変えつつあった。
しかし門前には門番すらいないというのに、市民たちは誰一人としてそこから踏み入れていない。
城門前の不穏な賑わいとはうらはらに、岸壁に張り付くようにしてある城壁からは鳥の鳴き声すらも聞こえないという不気味さが、市民たちの足を門より先へ進ませない最後の楔になっていた。
山に沿って城へと続く道は、蛇のように丘を巻くようにして続いている。半ばほどからフードを落とし、顔を上げた皇女の姿に、人々は道を譲るように開いた。
こうして多くの人の間を歩く皇女を見ると、その体格が、フェルヴィン人女性としてかなり長身であることに気付く。男性を含めても頭はんぶんは背が高く、背筋がぴんと伸びているので、群衆はかなり離れていても皇女その人だと分かっただろう。
皇女はついに城門までたどり着き、ごくりと唾をのんだ。城のシルエットを睨むように一瞥し、民へと向き直る。
それだけで、ざわめいていた群衆は黙り込んだ。
「みなさん――――」
はっ、とジジが最初に気が付いた。
ずん、と石畳が縦に揺れた。たとえば、平らにならしたケーキの生地をオーブンに入れる前に台の上に叩きつけるのを、この大地そのもので行ったような、そういう揺れ方だった。
揺れは激しく、人々が悲鳴を上げながらうずくまる。見えない何かがうねりを上げ、城から波紋のようにやってくる。
「サリー! 」
「ッ、ジジ! 」
互いを同時に呼ぶ。
皇女はその強靭な体で立ち続けていた。サリヴァンが強い力でその体を引き倒し、石畳に倒れ込んだふたりの前にジジが腕を広げて立つのと、城から青白い光の柱がほとばしったその瞬間は同時といってもよかった。
ジジの体から黒い靄が噴き出して硬質な盾となり、三人を覆う。ヴェロニカ皇女を片腕でかばいながら、サリヴァンがジジにつながる自分の影へと掌を押し当て、まくし立てるように呪文の一節を口にした。
「《願いは彼方で燃え尽きた。希望は彼方に置いてきた。望みはなにかと母が問う》」
ジジの輪郭の奥から金の光がほとばしる。
(呪文だわ)ヴェロニカはその詩の意味を理解した。この魔人を構成する三つの要素のひとつ。魂を構成する言葉。それを今、口にする意味。
一瞬の静寂のあと、なだれ込むような衝撃がおそった。眼球の中心あたりで白い火花が散る。
「《そこは楽園ではなく 暗闇だけが癒しを注ぐ道。時さえも味方にならない。天は朔の夜 星だけが見ている塩の原。言葉すらなく 微睡みもなく 剣を振り下ろす力もなく》」
漆黒の盾にさえぎられ、外を窺い知ることはできない。ごうごうと鳴る風の音と、サリヴァンの声と体温。腕を前に出し、石畳が割れるほど踏みしめる、ジジの白いはだしの足。
「《いかづちの槍が白白と、咲いたばかりの花々を穿つ。至るべきは此処と父が言う。我が身こそ終わりへと至る鍵。望みはひとつ》」
サリヴァンが大きく息を吸い込んだ。
「――――《やがて、この足が止まること》」
呪文の最後の節を言い切った瞬間、魔人と主の間にあるものが噛みあい、猛烈に回り出す。盾がより深い色になり、その厚みが増した。
「――――ふ、ぅぅうううううううあああああああああああぁぁああっ!」
「ジジ、いけるか! 」
「ちょ、いま、はああなし、かけぇえええんなぁあああぁぁううぅおぉおおおりゃああああっ!」
ぎしぎしと空気が軋む。ジジの雄たけび。サリヴァンの激しい呼吸。風の音。
それに重なって女の悲鳴がする。ヴェロニカがよく知る声だった。
「ダイアナ! どうしたの、ダイアナ! 」
「ふっ、ふっ、ふっ」
サリヴァンは激しく息をした。体中を汗が滴っている。
ジジがゆっくりと腕をおろし、漆黒の盾が空気に溶けた。
「ああ、なんてこと! 」
ヴェロニカが哀哭する声が聞こえる。
背後ではいったいどんな状況が広がっているのだろうか。サリヴァンの眼は、雲を貫いた光が細く消えていくようすと、青い霧が城を覆い、こちらへ波のように流れ出てくるさまに釘づけられていた。
(皇女を逃がさなくては)
そしてサリヴァンは振り返る。
石畳の上、立ち尽くす人々がいた。そこには皇女の嗚咽が響いている。遠く、岸壁に打ち付ける波の音も重なって聞こえた。
群衆は消えたわけではなかった。いまも城を見つめている。
「石に……? あの光が、人を石にしたのか……? 」
どくん、サリヴァンの心臓が激しい鼓動で動き出した。頭の芯から背中を冷たい絶望が舐めていく。
「……エリ」
鼓動が急かしている。
「……殿下。ここを離れましょう。一刻も早く出航しなくては」
●
「モニカお義姉様……! 」
「皇女殿下。守り切れず、申し訳ありません」
石像となったモニカとコナンは、ベッドの上に安置されていた。
うなだれるヒースは、小さく「間に合わなかった」と、こぼすようにサリーに告げる。その顔色は白い。
「おまえの体は大丈夫か」
「ああ。見ての通りだよ。……肝が冷えたよ。何だったんだ」
顔を覆うようにぬぐい、息をついたヒースは、するどい目つきで空を睨んだ。その空から、あの光は津波のように降り注いだのだ。そして壁をすり抜け、中で荷物をまとめていたモニカらを飲み込んだ。
「殿下。すぐにでも出航できます」
ヴェロニカ皇女は、その言葉をきいてすぐに立ち上がった。顔を拭いて振り向いた彼女の顔から、覇気は失われていない。
「……わたくしは、より生き延びねばならなくなりました。出航を」
空に船が舞い上がる。
ケトー号の黒い船体は、赤い西日を受けて雲の中に消えていく。
飛鯨船は雲の上まで到達すると、中間層である雲海にたどり着く。そこは雲の海と、星の海に挟まれた世界だ。その夜空の一部には穴が開いており、それを『海層突破点』と呼ぶ。次の海層へと続く路だ。その先は、ひとつ上の海層の海の底へと続いている。
この世界を、近世の学者はこう名付けた。
キミの世界の人々が、自分の居場所を『地球』と呼ぶように。
――――『多重海層世界』と。
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