きっと来世でプロポーズ

惟風

犯罪者しかいない

 視界が真っ白になった。気を失う時というのは、こういうことなのかと身を持って知った。遅れて痛みがやってきて、それは背骨から延髄を通って脳天まで突き上げた。

 失神は数秒、もしくはもっと短い時間で済んだらしく、両膝を強かに地面に打ち付けたところで意識を取り戻した。何とか四つん這いで身体を支える。

 顔を上げたところで、相手の女が若干怯んだ気配を見せた。

 金的。余りにも効果的な攻撃だった。

 色素の薄い眉を潜めてこちらを伺う彼女の面差しは、こちらがきりきりと悶絶する間にも美しさを損なわない。

 非は、どこをどう見てもこちらにある。

 不審者、痴漢、婦女暴行未遂犯、どう呼ばわれてもかまわない。真実なので。


 一目惚れだった。彼女の姿を見た途端、何としてもこの腕に抱きたいという衝動に駆られた。欲望のまま躍りかかった。抵抗されて当然である。

 昼日中、街の往来で見知らぬ男に組み敷かれそうになった女が鞄を振り回して無頼漢の急所を的確に打った。それだけの話である。

 だが、それだけでは終わらないのがこの物語の肝でもある。


 アスファルトをごとりと転がるものがある。

 我が陰囊を粉砕せしめた塊は、女の荷物から溢れ落ち、灰色の地を赤黒く染め上げていく。


 生首。


 恐らく男性であろうと目が合った俺に、美女の第二撃が痛烈にHITした。


 あいつみたいに首だけになった方がいっそ楽かもしれない。

 ままならない下半身の情動との別れをこいねがいながら、俺は静かに瞼を閉じた。

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きっと来世でプロポーズ 惟風 @ifuw

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