テスト投稿

炭栖

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「なんかいい動画ないかなぁ……」


私は大学生になってもお世話なっている、子供用勉強机の椅子に座りながら、スマホのフォルダ内を漁る。


「と言っても、あんまり動画撮らないんだよね」


私の場合、撮る側というより、撮られる側。正確に言えば、誰かがスマホを構えているところに勝手に飛び込んでいく側。


……そんな「側」はないと思うけれど。


とにかく、私のスマホに動画なんてそんなに入っていないのだ。なんか短めの動画で試したいんだけどな。


と悩みながら、スマホの画面をスクロールしていると、真っ黒な画面がサムネイルになっている動画を発見した。


「なんだこれ、こんなの撮ったっけ」


うーむ、覚えにない。


首をかしげながら、サムネをタップしてみる。


『この曲をあなたに捧げます。フォーイェー!!』


とテンション爆上がりの声が聞こえてきた。そしてその声の主は紛れもなく、私である。

ふむ、この動画の私、出来上がっているな……。


『では聞いてください! ずっとお前を愛してる!』


と急なタイトルコール。しかもラブソング……。

そして歌い出す私。音程は全く合っていない。しかもアカペラ。


フルコーラスではなく、一番の歌詞だけ歌った私。それで満足したのか、今度は急に語りだした。


『そう、私の隣に座ったそこのあなた! 今日一番のサプライズでした。だからこそ言っておきたい。私はあなたが好きだと。飲み会中、気が気じゃなかった! バレンタインにもらったチョコは美味かった! お返しめっちゃ悩んだ! 誕プレのサメのぬいぐるみ毎晩抱きしめて寝てる! 人の気も知らねーで優しくすんな、もっと好きになるだろ! オウイエイ!』


語っていたと思ったら、なんかテキトーに歌い始めた。うーむ、相当酔っておりますな、これは。


「まあ、これでいいか」


画面が真っ暗なのは、レンズ部分が机にくっついているせいだろう。

適当な長さの動画だしちょうどいいか。


「えっと、これをアップロードして……」


ついでにURLをSMS送って、外部からどういう感じ見えるか確認しておこう。確かあったよね? 直接リンクをクリックした人しか動画を見れない設定。


私はSMSに自分だけのグループを作って表示させる。ここにURLをコピペすれば……。

そう思っていたところ、友人からメッセージが届いた。


『ねえ、実家から大量にじゃがいも届いた。消費すんの手伝って』


お、食料はいつでも大歓迎である。


『喜んで!』

『んじゃ、明日持ってく。おやすみー』


と、数回のやり取りで終了。



……。


もっと他になんかないんかい。

私なんでこんな女を好きになったんだろう。

まあ、いいか。

作業に戻ろう。


私は動画のURLをコピペし、送信ボタンを押す。


「おーい、姉貴。宿題わかんないから教えて」


ノックもせずに私の部屋のドアを開けた弟がドアの隙間から顔を出す。


「ちょっと、花の女子大生様の部屋だぞ。ノックくらいしなさい」

「へいへい、宿題明日までなんだけど、どうも、わからないところがあってさ。教えて? お願い」


と手を合わす弟。


「今から?」

「うん、今から」

「へいへい」


私はスマホを机に伏せてから弟の部屋に向かった。


一時間半後……。


ありがとう、助かった。今度アイスおごるわ。


という弟の言葉をしかと聞いてから、部屋に戻った私は作業の続きをしようとスマホを手に取る。

そして、通知がたくさん来ていることに気が付いた。


通知元はメッセージアプリ。相手は例の友人。

最後のメッセージは、


「返事しろー。寝るに寝られないじゃない」


それと怒りの絵文字。

状況が読み込めず、


「何? どうした?」


と送る。すると間髪入れずに、電話がかかって来た。


「どうした? じゃないよ。何? あの動画!」

「へっ?」


私は自分の顔から血の気が引いていくのを感じる。

もしかしなくても、送信先ミスったな? これ。


何やってんだー! 私ぃー!


ああ、終わったわ。

なんとか、弁明せねば。


「あれはですね。その酔った勢いと言いますか……」

「はあ? この動画いつ撮ったわけ?」

「えっと」


私は慌てて動画の作成日時を確認する。


「……半年前です」

「なんで、そんな動画を今頃送ってきたわけ?」


と相手の声から困惑の色がにじみ出ている。

私は仕方がないのですべてを正直に話した。


「はあ? Vlogを始めようと思ってとりあえず適当な動画を限定公開で投稿した?」

「なので、あの……。このことはなかったことにして、今まで通り友人として接してもらえると……」


ありがたいと申しますか、なんといいますか。


「……それって今はもう私のことは好きじゃないってこと?」


なんでそういうこと聞くかなあ。ああ、恋愛感情持ってるやつは、近づくなってこと?


「いや、好きですけど! でもそっちの嫌がることは絶対にしないから。だから、その、友達としていさせて欲しいと……」


と私は正直な気持ちを早口でまくし立てる。


「ふうん……。やっぱ明日、いもを持っていくの、やめるわ」

「あ……」


友人関係終了のお知らせ……。

焦燥感で温まっていた身体が急激に冷めていく。


こんなことなら、あんな動画、削除しておけばよかった。今まで存在していることすらすっかり忘れていたにしても。

でも、まさか本人にご送信するとは思わないし。


「……ちょっと聞いてんの?」

「え? ごめん。ボーっとしてた。もう一回お願いします」


正直、聞きたくもないけれど。


「だから! 明日私の家に来い! 渾身のじゃがいも料理を振舞うから!」

「へ?」

「全く、半年前とか。動画を作るくらいなら直接言ってよ! いや……。私も人のこと言えないわ」

「ん?」

「バレンタイン手作りにしてみたり、寝るのが好きって聞いたから、抱き心地のよいぬいぐるみをプレゼントしたりしたけど。正直、私も告白する勇気はなかったかも」


んんん? 話の流れが……。思っていたのと違う。


「ってことは……。え!? もしかしなくても両想い!?」

「そーだよ! てか聞くな! 気づけ!」


まじか、まじかあ! 私は再び体温が上昇するのを感じた。そして思わず拳を突き上げながら叫ぶ。


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テスト投稿 炭栖 @smith17

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