第22話 立ち上がる者

『6utrq』『qhxytpt@ues』『3ezf』

『/w@qe/w@qe!』『tyf[e!』『x:knqe』

『d30pq@u』『-ysi9tzq』『qkde』



 …追い付かない。このままでは。



『3;fui』『b0e』『goe』『s:.』『e7q@』

『hoe』『0toue』『:5.』『at@4』『g5w』



 …持たない。このままでは。



『4akbfs@b』『tkd@9f』『bbf』『6;f』

『0qdf』『4af』『0df』『-@hf』『q@;?』



 …殺される。このままでは。


 だから——




 暫くの間、お眠り下さい。我がよ。







 今日は収穫祭当日、国中で祝いの宴が開かれる日で冒険者にとっても獣肉が高値で売れる為ありがたいイベントでもある。そんなこともあってか、いつもは煙たがれる冒険者でもある程度下手に出れば街の住民からも冷たい目で見られる事なく収穫祭を楽しんで過ごせるのだ。

 そして毎年街の広場では数多くの屋台が立ち並び、人種老若男女問わず多くの人達の笑顔が広がる様子が見ることが出来る。


 だが、その筈なのに広場には人影が中央に設置されたステージ上に居る1人を除き見当たらない。代わりにあるのは木に押しつぶされ燃える屋台と、砂に埋もれひっくり返ったジョッキや食べかけの状態の串焼きなどが散乱した光景のみ。


 そんな状況に驚きもせず建物の陰から様子を伺っていた二人組は此方に振り返る。


「お前にはアイツが呼び出すであろう手下の相手をしてもらう。気を引くだけで良い。あの様子なら直ぐ終わる」


「待ってくれ、あそこに倒れている白服が今回の首謀者なのか?」


 森で助けられここまでついて来た私だが、街の変わり様や倒れた人達など聞きたい事が山積みで情報が処理しきれずにいた。


「それはお前の考える事ではない。それと私が貸したミラーシェードは絶対に外すな」


 情報を共有しない所に不信感を抱くが、気絶した仲間の手当てをしてもらった恩があるため今はまだ協力しようと思う。


 それに王女が声を掛けた組織の人間というのだから我々冒険者では知り得ない情報も持っている事だろう。今起こっている事件がただ事でないことは分かっている。街に入る時に渡されたミラーシェードもただの道具ではないことも着用した時に確かに感じたのだ。


「索敵終わりました。周囲に手下は無し。辺境伯の屋敷が妙にに物静かななのが気掛かりですが此処から距離が離れていますので問題はないでしょう」


「ならまず奴の首を跳ね。そして儀式の中心点を見つけ出しを叩く。それで良いか?」


「はい。ですが後程倒れた人々の手当と燃えた屋台の消火も行いたいので手伝ってくださいね」

「一人でやれ」


 先程から片目を兜の上から手で隠している女と、何処からか取り出した金色の大槍を構え今にも飛び出しそうな男。二人が勝手に話を進める間、私は置いて行かれぬよう耳を傾けながら中央のステージに見える人物を観察していた。


 倒れていて顔は見えないが体格から女性であると推察できる。服装は全身を白で統一した格好で私の見た事のないデザインのものだ。


 二人はあの人が犯人のように言っているが王女の話では今回の儀式を計画したのは部下であるジキルという男だと聞いていた。だとするならあの女は儀式を任された共犯者で、何かしらの原因であそこに倒れたと見える。


 街が砂と木に押し潰される光景を生み出し、街中の人を気絶させた上に広場に居た多くの人を転移で連れ去った犯人が彼女なのだとしたら、それは決して許される事ではない。しかし彼女を見ていると、何故だか可哀想な人を見ているような気分になるのは私の気のせいだろうか。


「——い。おい!ほら行くぞ」


「あ、ああすまん。手下の足止め、だな」


 敵に情を掛けても此方の隙を生むだけだ。そう言い聞かせ自分の気の迷いを押し込み立ち上がる。


 屋台を燃やす炎は広場だけではなく住宅にも燃え移り始めている。このままでは途中に見かけた気絶している多くの住民が危険に晒されてしまう。


 この街に居る衛兵はこの事態を把握しているのか。それともあの悲鳴にやられ気を失ってしまったのか。どちらにしろ街の危機を救えるのは今居る私達をおいて他にない。


「よし。行こう」


 私の愛する街を守るために。







 燃える広場に3人が踏み出した同時刻。


「はぁ…!はぁ…!はぁ…!何なんだよ!」

 

 白い光に照らされ常時ならば神秘的にも感じたであろう森の中、肩から先の無くなった片腕を押さえながら息を切らし走る者がいた。


「早く…!伝えないと…!」


 足が重く思うように踏み出せない。腕から絶え間なく垂れ流すそれを直視すれば死に体の身体は直ぐにでも倒れるだろう。でも、そんな暇をアイツらが渡してくれるはずがない事は明白。だから走る。無様でも。命を削る行為でも。だって——-


「あの子達が助けを待ってるんだから…!」


 最後に浮かべた恐怖の顔が忘れられない。笑顔が素敵だと笑いながら言ってあげたのに、その顔を塗り潰してしまう程に絶望にまみれたあの顔が頭から離れてくれない。


 なのにあの子達の最後の言葉はいつも通りの優しい声で、私を思いやる気持ちに溢れていて。


「逃げて?出来るわけないじゃん。だって私皆んなのリーダーだもん…!」


 無くしたもの笑顔を、奪われたもの仲間を取り戻すべく彼女小さなリーダーは走り続けた。

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