第19話 同業者

 依頼を受けることを決めて数日、依頼の詳細を改めて話すと召集を貰いギルドの一室にこの依頼を受けた5つのパーティーのそれぞれのリーダーが顔を合わせていた。


 私が最後ということもあり既に来ていた面々の表情を見渡すことができたのだが、それは私が最後の受諾者ということへの困惑だった。

 その理由は———


「最上位のあの二人が居ない…?」


「ご明察!ぱちぱちぱちぱちぃ〜!」


 ギルドに所属する者に割り振られる階級、その最も上に位置する猛者たち。この都市の場合二つのパーティーがそれに当たる。彼らが居ないということはここに居るのはその階級より一つ二つ下の者たちということ。その戦力で今回の依頼が十分と言うのであれば私の胸騒ぎは杞憂に終わるのだが。


「あれ、この依頼だいぶヤバそうだけど、君ちゃんと理解してから来た?それともあの可愛い王女様に絆されて来た感じかな〜?」


「…冗談はやめて下さい。私も長くこの仕事をしているので依頼を嗅ぎ分ける程度出来ています。それに珍しいですね。あなたが楽じゃ無い仕事をするなんて」


「あらら、言い返されちゃったぜ!」


 目の前でぴょこぴょこと跳ねながらおちゃらけた空気を出し、年齢よりも若く聞こえる声で此方を煽る女。彼女も見た目は少女に見えるが立派な私と同じ階級の冒険者である。いつもは金払いの良い依頼を誰よりも早く見つけて掻っ攫い、飛んで行ってしまうので彼女が率いるパーティーの実力は不鮮明だ。


 そんな彼女が今回に限って出てくるという事は、彼女も私と同じ予感をこの依頼から感じ取ったと思っていいだろう。


「よお!久ぶりだな。元気にそうで何より。ところでカイルの坊主は俺のアドバイス通りあの嬢ちゃんと仲良く出来たかい?」


 さっきまで椅子に座って寝ていた居たのか遅れて此方にやって来た年季の入った装備を身に纏う男。階級は同じと言えど積んだ経験の量が違う為、私や他の冒険者は彼には頭が上がらない。此方のメンバーのカイルにアドバイスを授けたということからもその顔の広さが伺えるだろう。


「お久しぶりです、ハイネルさん。カイルは上手くやれたみたいですよ。今日も二人で出掛るみたいですし」


「おお〜良いね良いね。若いうちに女を見付けないと後々後悔して、あっという間に俺みたいなオッサンになっちまうからな!」


 そう言って笑う姿には少しだが悲壮感が感じられる為反応に困ってしまうが、実際にそういう人は冒険者に多い。いつ命を失っても可笑しくはないない。人の世に必要な職業であると同時にそういう存在でもあるのだ。


「はいはーい、そんなハイネルおじさんに一つ質問です!ここに集まった私達に共通していることは何でしょうかー?」


 酒でも飲んで来たのかと聞きたくなる程に高いテンションでベテランである方に敬語を使わず話しかける姿に目眩と呆れを覚えてしまうが、当人に反省する気概は毛頭無くハイネルも気にした様子はなかった。


「んん?そりゃ俺達があの最上位の奴らバケモノどもに一歩及ばぬ実力者ってことと————」



「君たちがこの都市から依頼で離れていたこと。うん、大正解だ!」


 …この部屋に居なかった筈の6人目によって答えられた内容は私も考えていたことだ。しかしその理由が今まで分からなかった。だが、それもこれから目の前に現れた依頼人が教えて下さるのだろう。


「名前は言わなくても分かると思うけど、名乗りたいので名乗ることにする」


 この国に住む者なら誰もが知っている笑い話がある。

 女に産まれながら王座に座る事を宣言した稀代の変わり者。自身の我儘を貫き通す台風の目のような変人。されどその美貌は数多くの貴族を虜にし骨抜きにしたという。


「そうとも。僕こそが次なる王となる者!」


 その声は吟遊詩人バードの歌声のように私の中に入ってきて、とても甘く、私の脳を揺さぶった。


「カルタゴ王国第4王女、アーティカ・シャムス・カルタゴ。その人である!」


 突如として現れた王女に私達は一斉に頭を垂れて平伏する。


「因みに私は今お忍びの身なので非常時につき、”アーちゃん”と呼ぶことを許可するッ」


 最後の言葉につい頭を上げてしまったのはどうか許して欲しいものだ。

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