第17話 出航だー!
時は流れ、船の建造に携わった森の動物さん達の数は今では俺の知らぬ間に100匹近くにまで増えている。
『数えるのが面倒で途中から適当だけどね』
「フギュフキュ!」
船の大きさは俺の予想よりも大きく立派なものへと進化していた。設計はジキル、組み立てはゴリラが行い、資材は他の動物達が島中を駆け巡り又は飛び回り集めた物と座礁した船から再利用した物で出来ている。因みに俺は役立たずだった。
そして出来上がったのは——————
全長推定3.5m!
幅推定1.5m!
高さ推定4.5m!
素材は自然の温もりを感じさせる木材仕様!
マストにはジキルの拘りなのか何処ぞの国の紋様が描かれている。
推進力はマストが受ける風と魔術で船の周辺の海水に干渉し流れを操作するのだとか。万が一の転覆にもそれで備えているとのこと。
『なんだこの、頑強な姿は…』
手作りの船か?これが…。
これが本当に俺の望みだったのか?
『違うな。間違っているぞ!』
そうだ。脱出島にこれでは相応しくない。俺が見ていた、熱狂していた番組はこんな綺麗な姿では無かった。泥臭く知恵を捻り苦労の末に完成した物こそが真の脱出島だ。
『間違ったやり方で得られた結果なんて、意味はないのに』
当時の視聴していた俺はアイツにあまり共感出来なかったが、今なら分かる。求めているのは正攻法なんだ。非効率なのは分かりきっている。でもその非効率さの向こうにこそ俺の憧れは確かにあったのだ。
今からでは遅すぎるのは分かっている。でもせめて、魔法で楽するのだけはどうにかしてもらえないだろうか。オールを漕ぐのであれば疲れ知らずの俺が適任であるし、魔法だって一日中使い続けるのは難しいと言っていた。なら俺の案が通る目処はまだある筈。
座礁した船の方向に食料やその他必要な物を詰めたカバンを背負うジキルが見える。俺は先の案を伝えようと側に駆け寄った。
『あ、あの———』
「ご主人様、暫くの間お暇をいただきます」
『……は?』
唐突の有給申請に言おうとした言葉が喉に詰まる。
「目的が果たせるまでの間、お側に支えられないことをどうかお許し下さいませ。必ずや我が主の願い、成就させて見せます故に」
どういう事だ。何故コイツはさも1人で島から離れるような口振りで話をしているんだ?
『えーと…俺も乗るってことは出来たりしませんか…?』
「……失礼ながら一つだけお尋ねしたいことが。ご主人様は水泳はどれ程出来ますでしょうか?」
『…………無理です。やっぱり残ります…』
…盲点だった。ライフジャケットが無いのに泳げない奴が海に出るとかほぼ自殺行為だ。
俺の脱出島はそもそも始まってすらいなかったのである。
「それでは行って参ります。ご主人様もどうか体調にはお気を付け下さい」
『うん…、そっちも頑張ってね』
「はい!」
どんどんジキルの乗る船が小さくなっていくのを眺めながら俺は地面に座り込み、出ない涙を押し付けながら砂浜を殴りつけた。
『畜生めー‼︎』
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