第13話 ご褒美

『マジでどうしよう…』


 視界の端でせっせと船内から使える物資を調達しているジキルから離れた場所で俺は頭を抱えていた。


 新たな島の住人の自己紹介を聞いた後、1人になりたかったので仕事を欲しがったアイツにお使いを頼んで今に至る。


『異世界の言語と、簡単な常識が手に入ったのは良いけど…』


 悩みの種は他にもあり、それは毎度何処からともなく生えてくる存在しない記憶のことである。


 ジキルとの接触。それが切っ掛けになっているという仮説を立ててみたがそれでも謎は多い。


 条件は何なのか。この記憶は接触した相手から得たものなのか。その場合相手に記憶障害などあるのか。


 考えれば考える程に悪い考えが湧き上がってくる。アイツに直接聞けば少しは分かると思うが…


『うーん…、怖いんだよなぁ…やっぱり』


 感情が読めない人が怖いというのは前世でも体験したことあるが、そもそも顔が無い奴と話すのは今回が初めてである。顔面に宇宙が広がってるのは俺も同じだが…。


 厳密に言うと口から下はあるのでそれが救いだろうか。いや、口だけ見て相手の感情を読み取れる程のコミュ力を俺は持ってない。


「ご主人様、お食事を用意しようと思うのですが何か好き嫌いなどがおありでしょうか?」


『え⁈あ、い、いや、無いです…!』


「畏まりました。食材が限られておりますので簡素なものになりますが誠心誠意作らせていただきます」


『…ありがとう、ございます』




 ……気配を消して近寄るのやめてくれないだろうか。


 一つ一つの動作に気品の感じられる所は俺も素直に凄いと思うが、何も足音まで消して歩く必要はないだろうに…。


『それにしても料理か…。食べられるのかな…、この体?』


 口がない。呼吸を必要としない。腹も減らない。


 この事から俺は転生してから一度も食事を取っていない。というかこの体はまだ分かっていないことが多いのだ。消化器官があるのか知らないのに体内に食べ物を入れるのは怖い。でも興味があるのは確かだ。


『思えば俺、娯楽を暫く味わってねぇ…』


 森を彷徨い、熊から逃げ、巣穴で眠り、山を登り、山から落ちて……。


『………』


 俺、頑張ったと思う。かーなーり!頑張ったと思う。


 大事なことなので二回言ったが、この世界に転生してからこれと言って楽しい事が一度もなかったのだ。なら少しは自分を甘やかしても良いのでは?


『誰だってそーする。俺もそーする』


 よし決めた。食おう!俺は頑張ったのだ。ならご褒美を貰う権利くらいある。


 ご褒美は頑張った子にだけ与えられるから ご褒美なのだ。心の中の銀髪美少女エルフもそう言ってた。


『なんか楽しみになってきたな!』


 そう呟きながら俺はさっきまで抱えていた悩みの種を一旦ぶん投げて、料理が出来るのをまだかまだかと楽しみにしたのだった。

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