第10話 チートアイテム

『ぎゃああああああああ!』


 俺は今、猛烈に回っている。


『がっ!うっ!ふぁ!どふっ!あべ…!』


 上下の感覚はすでに無く、全身が己の意思とは無関係に動かされる。


『がは!!………やっと、とまった…!』


 俺は歓喜の声を上げる。勿論痛みにではなく落下が止まったことにである。俺はドMではない。


 朝のこと、昨日見つけた船の方向に向かって下山を開始した俺だったが事件は起きた。落石が俺の脳天を直撃したのである。幸い石は一つで生き埋めにこそならなかったが、小さい石だろうと痛いものは痛い。結果悶絶し、よろめいた足は道を踏み外し現在に至る。


 落ちる姿はまるで⭐︎ゲッダン⭐︎のようで…


『あれ?そう考えると俺のやりたいことリストが一つ埋まったことになるのか』


 まさかの事実に気付きながら俺は起き上がり服に着いた土を払う。昨日といい今日といい何処からか破れても不思議ではないのにこの白装束にダメージは無く、それどころか生地の白さは全く損なわれておらず新品同様だ。洗濯いらずで耐久性も優れているとはとんだチートアイテムである。これがあれば世界中の子持ちのママさん達は泣いて喜ぶに違いない。


『ただいま、マイホームよ。まだ一回しか寝てないけど、お前の事は忘れないでおくよ』


 通りかかった巣穴に別れの挨拶を済ませ進みづける。俺はこの島を出てやらなければいけないことがあるのだ。モタモタしてはいられない。


 バサバサと草木を掻き分けながらあの船について考える。


『船があるってことはこの世界に人はいるってことだよな』


 俺は今まで転生してから人の影も形も見て来なかったため、この世界に人類が存在するのか、文明はどのレベルなのか不安だったがあの船が見れたことで解消された。


『確か…蒸気機関は産業革命の頃から、だったか?』


 うる覚えの知識を頼りに考察して行く。ぶっちゃけ俺は物事を楽観的に見る悪癖がある以上意味はあまりないのだが、こうやって知識を掘り出して事前情報を確保しておくことは大事だと思っている。


 だってそうだろう?異世界の事について何も知らない主人公に一から懇切丁寧に解説してくれる親切な美少女が俺の前に現れてくれるとは限らないのだから。


 『おお〜!やっぱ迫力あるな!』


 草木を掻き分け遂に見えた船のお姿に感想を吐露する。マストは折れ、砲門は何かにこじ開けられたかのような跡が見られる。


『テーマパークに来たみたいだぜ テンション上がるなぁ~』


 気分はさながら殺し屋、ではなくカリビアンのパイレーツだ。宝とか見つかったりしないかなとウキウキで砂浜を歩く俺は途中で可笑しな点に気付く。


 本物こそ見たことはないが長らく放置された木造物なら前世でも目に入ったことぐらいはある。コケが生えていたり、植物に覆われていたりするものだがこの船はその様子がない。つまり妙に船が新しいのだ。


 中に誰かいるのかと思い先程の開け放たれている砲門から中を覗き込もうとし——



「動くな」


 突如背中に突きつけられた言葉によって俺の動きは封じられたのだった。





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