第7話 ようこそ人外の住まう地へ!
『グッドモォーニング!エヴリワン!』
いやはや良い朝だね皆んな!誰に挨拶してるかって?それは俺の死角でピーピーだかカーカーだか囀ってる鳥達だよ。まあ俺が振り返ると誰もいないし声もピタリと止むんだがな!きっと皆んなシャイって奴なのだろう。
『顔を洗いに…って、そういえば今顔無いんだったな!アッハッハッ!』
昨日は熊に追われて散々な目にあったせいでこんな粗末な寝床でもぐっすり眠れた。それとこの体のお陰である程度不快感の原因を無視出来たのも大きい。
『折角だしラジオ体操でもするか!』
お気付きだろうが今の俺はとてもテンションが高い。元々の立ち直りの早いマイペースな性格も作用しているのと、昨日吹っ飛ばされた筈の異世界へのワクワクの火種がまだ俺の中から完全に消えていなかったということだろう。
諦めたくない。せめて異世界のもののテンプレを一つくらい味わいたい。そんな願いを叶える為にも俺は一刻も早くこの森から脱出しなければならない。
『何個か思い出せなくて飛ばしたけど体はほぐれたからヨシ!出発だ!』
なんとなくで済ませたラジオ体操を終え、俺は時間が惜しいと言わんばかりに歩き始めた。目的地は俺の脳内に勝手に生えてくる存在しない記憶の一つにあったものだ。睡眠を取ったお陰か、昨日までゴチャゴチャしていた記憶が選別、整理整頓され次の目的地への道を指し示してくれる。
残念ながら人の住まう街の記憶は見つからなかったが、見つける為のものはあった。
『迷子になったら木に登って道を探すってのは俺でも知ってる』
だがこの森の木は兎に角背が高いせいで枝に手が届かないのだ。木登り名人ならこんな時の対処法を知ってるかもだが俺は木なんて登ったことないし、登っても怖くて降りられなくなるのは目に見えていた。たが、それは木に限った話。
『登るのは中学の野外研修以来か?だが俺は人外。あの程度の高さなら恐るるに足らず。』
準備のしようも無いのだが俺はこの体なら行けるとどこからともなく湧き上がる自信を胸に走り出す。距離は此処から走って1時間。
『登るぜ!山ぁ!』
標高は記憶を見た限りそこまで高くないように感じたので、あれなら日没までには頂上付近まで行けるはずだ。
登山を完全に舐めていたこの時の俺は、まさか頂上に辿り着くのに4日も彷徨うことになるとは思いもしていなかった。
◇
同時刻、人外が向かう方向とは逆に位置する海岸でとある男は目を覚ます。
「……うっ、こ、此処は、何処だ…?」
脱水症状のせいか目眩を感じながらも、嵐に呑まれ大破した船の甲板に立ち上がる。
「……ああ、何ということだ。…だが、諦めてはいけない。私は、あのお方の元へ必ず無事に帰ると約束したのだ」
見知らぬ地に来たことに心が折れてしまいそうになるが、男は自身が仕える者と交わした契りを思い出し前を向く。
「待っていて下さい、殿下…!」
幼い主を守るべく男は行動を始めた。
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