第5話 熊さんにぃ出会ったぁ
前世で流し見していた番組で熊と遭遇した際の生き残るための行動についてやっていた事を思い出す。
俺もなんとなくで見ていたこともありそこまで詳しく思い出せないが、覚えていることは
“熊に背中を向けて逃げないこと”
これは熊の習性が理由らしい。だから熊を見つけても慌てず、倒木や石に上って自分を大きく見せて威嚇するのだとか。そんな事をこの瞬間で思い出した俺は勿論すぐに……
『無理無理絶対ムリだろぉ!!』
全力Bダッシュ、脱兎の如く撤退。姿は見てないがあの声のデカさと存在感は間違いなく俺より大きい肉食獣のもの。そして森に住んでるということは俺の知ってる動物だと熊しか思いつかない。
『ヤバイヤバイ!来てる来てる来てるぅ!』
目が覚めてから一度も動物に出会えて無いことからすっかり油断していた。あんな大自然の中で馬鹿みたいに大声を出してたら何かしら近づいてきても可笑しくはないだろう。案の定、飯を探してた森の熊さんに目をつけられた訳で。
『だからってこんな事普通ないだろ!』
石を投げたら木が消えて、偶々潜んでた熊に直撃して怒らせて。不思議なことが起こり過ぎてる。ああ、もう帰りたい!何が異世界だ!何が転生だ!今の所異世界要素が全くないぞ!夢ならとっとと覚め——!
『うわッッ!』
足に何か固い感触を感じたその瞬間、俺の体は地面へと向かい激突した。獲物が横転した隙を見逃すはずもなく肉食獣は飛び掛かり、俺は無駄と分かっていても振り返り叫ばずには居られなかった。
『食べないでぇ!』
———
————
—————ん?
唖然。最後の命乞いにみっともなく叫んだ先には何も居なかった。
『熊は、どこ行った?』
俺は確かに追いかけられてたはずだ。相手を見る暇もなく走っていたが、足音や息をする音などでそいつの存在感は肌でひしひしと感じていた。なのにそいつの姿は見えずまた周りには静寂さが残るのみだった。
『……もう、……疲れた』
緊張が解け体を大地に投げ出す。転生し疲れ知らずになった体だが、俺の精神はもうボロボロだ。熊に追われる前にしていたことも疲労でどうでも良くなり、取り敢えず休める場所を探すことにする。
『ここを離れた所に洞窟がある』
ん?ああ、また例の存在しない記憶か。丁度良い。今はまだ天気は良いが雨風が凌げるならそこで暫く休むことにしよう。
この森で目覚めてから可笑しなことばかりで、最初にあったワクワクも今では跡形もなく消し飛んでしまった。此処は何処なのか。俺の体は何なのか。知らないことばかりで明るい未来が全く見えないが、寝たら何か変化があるかもしれない。そんな都合の良いことを自分に言い聞かせて俺は洞窟に向かうのだった。
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