第6話 私たち

 私たちはとても驚いた。鈴原のおじいさんはいわゆる見える人だったらしく、のんきに浮遊していた鈴原でさえ初耳の情報のようで驚いていた。鈴原のおじいさんいわく、鈴原の家ではまれにおじいさんのように力の強いものが生まれるそうで鈴原も目立たないもののその資質があったという。

 だからこそ未だに悪霊ともならずにこの世に居続けることができているんだとか。眉唾な話だし話半分に聞いておくつもりだけれど、実際に幽霊となった鈴原が化けて出ている状況だ。飲み込まずにはいられなかった。


 その話を聞きながら、カステラを半分にして牛乳を添えていつものように供えるとそれを見たおじいさんが「カカカッ」と豪快に笑った。

 


「お前さんのその性分が、辰一を悪霊にせずにいさせてるのかもしれんな」



「はあ…よくわかりませんが、もしそうならよかった。辰一くんとはこれからも一緒に過ごしたいので」



「まあゆっくりしていきなさい。お前さんも辰一も」



 私たちはおじいさんのお言葉に甘えて、本当にのんびりゆっくり過ごした。私たちの存在が許された場所なんて初めてだから、本当はすごく嬉しかった。鈴原が見える人なんて初めて会ったし、それが鈴原の家の人なんて!私は実は興奮していて、鈴原も興奮していた。私たちは布団に寝転んで笑いあった。朝になるまで笑いあった。枕も投げたし障子にもうっかり穴を開けて、おじいさんに謝ったりもした。

 幸せな時間だ。こんなに幸せなことがあっていいのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る