第5話 私
私は
それからプツンと行方をくらませた鈴原とまたこうして過ごしている。鈴原のいなかった時間は初めは苦しくさみしい時間だったが、新たな出会いもあった。
私は私の家族と疎遠な代わりに、鈴原のご家族とそれなりに親しくお付き合いさせてもらっているし、今日は鈴原のおじいさんのところへ泊まりに来ている。
鈴原が行きたいと言うものだから断れなくて、生きている間に友達をしていたらよかったが私たちはそうではなかった。だからボロが出ないか心配だ。よくしていただいているだけに期待を裏切ってしまわないか不義理をしてしまわないか心配だ。
亡くなった孫の友人を名乗る不審者に対して、鈴原のおじいさんはとても親切だった。ふたり分の部屋を取った時、彼はなんだか驚いているようだったけれど、「そうかそうか」と一言言って笑っただけで他には何も言ってこなかった。頭のおかしい奴だと言われると思っていた。彼は何も言わなかった。笑顔が鈴原と似ていると思った。
お湯から上がって部屋に戻ったら、ふたり分の布団が敷いてあった。鈴原は修学旅行みたいだと喜んでいたが、まさかふたり分敷いてあるとは私も思っていなかった。
それから少しして鈴原のおじいさんが部屋に来て、「これおやつだから食いな」と皿に乗ったカステラと牛乳を二人分のったお盆をくれた。ああ、鈴原だ、鈴原の好物だ。そのまま背を向けて帰っていこうとする鈴原のおじいさんに私は声をかけた。
「あの、よかったら一緒にお話しませんか?」
鈴原のおじいさんはじろりとこっちを睨みつけたあと、長い溜息を吐いて部屋に入ってきた。なんだか緊張する。鈴原がのんきにふよふよと中空を浮遊して「大丈夫大丈夫、じいちゃんは顔は怖いけど優しいから」と私の耳元に囁く。存在しない吐息が耳にかかった気がして私は不愉快になった。
※※※
「で、お前は誰なんだ」
「私は鈴原くんとは高校の同級生で柳龍一といいます」
「で、お前は?」
「えっと…」
「ああ、お前じゃない。そこに浮いてるお前のことだ。辰一」
「「えっ」」
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