第4話 俺たち・2

「絶景…!、とまではいかないけど綺麗だろ。こっから見る夕日!俺ここ大好きなんだ」


 俺たちはじいちゃんの宿に宿泊し(実際に宿泊してるのは柳一人だけど、柳はなんでか二人部屋を選んだ)、その日の夕方から露天風呂でまったりしている。ここらへんは周りに特別なんにもないせいで、秘湯だとか言われているが俺からしたら馴染みの温泉だ。


 寂れてる田舎だから他に建物もない、高台に建てられた宿の名物の露天風呂から眺める夕日は格別だった。俺にとっては懐かしい景色で何にも代え難い大好きな光景だ。



「本当に、きれいだな。ありがとう鈴原、お前の好きな場所を教えてくれて」



「ありがとうなんて!照れるぜ」



 柳は露天風呂に俺も入ると言ったら柳は抵抗した。「今更何を嫌がるんだよ」と思ったのでそのまま言ったが、今はちょっとだけ後悔している。強引に俺も一緒に露天風呂に出た。


 幽霊になった俺は脱げやしないしお湯に浸かれもしないが雰囲気を楽しみたかった。独特の湯の香りや鳥や虫の声に耳を傾ける。今の俺には湯の温かみもベタついた湿気も感じ取ることができないが、その代わりに他のところが敏感になったから変な感じだ。


 柳が、一糸まとわぬ白い肌の半身を晒した柳が俺の目の前に現れた。柳は恥ずかしそうにむくれていた。柳が恥ずかしそうにしている理由がわかった。柳が抵抗していた理由がわかった。

 柳の肌はところどころに傷跡や薄くなったアザがあった。柳の体中にそれらがあり、柳はそれを俺に見られることに躊躇していたようだった。



「それ」



「もう治ってるから痛くないよ、ごめん。これ恥ずかしくて…人に見せるの初めてだから…」



「そっか。無理強いしたみたいでゴメンな」



「いいよ。もう。こうなったからには私もこの状況を楽しむ事にする」

 


 俺たちは日が沈むまでの時間をゆったりと過ごした。

 赤い夕日が静かに地平線に落ちて沈んで、しっとりと紺色の夜の帳が下りてくるまでの静かな時間を俺たちはのんびりと湯に浸かりながら楽しんだ。俺たちはその時だけ珍しくおしゃべりを止めてその景色に見入っていた。

 柳が息を吐くように静かにつぶやく。


「本当に綺麗だ。お前が好きな景色を私にも教えてくれてありがとう。おかえり、鈴原」



 おかえりと言われた瞬間、俺の中の何かがはじけて胸が暖かくなった。ああ帰ってきたんだ。俺は帰ってきた。



「ただいま、柳」


 いつだって柳のいるところが俺の絶景。




 

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