第4話 滝塚市角端埠頭事件―③
【時刻:午後一時半頃 視点:加納聖】
シニョン・プレフォールズの売店エリア。入り口に設営されたバリケードの向こう側で、加納は子供の親にお礼を言われていた。
互いに何度か礼をした後、親子は去っていく。すると、後ろから今日一緒にシニョン・プレフォールズを訪れた友人たちがやってくる。
「す、すげぇなお前。半魚人倒しちまうなんて」
「いやあ、たまたまだ。それよりも、一体何がどうなってるんだよ」
「わかんないわよ。とりあえず、救助を待つしかないんじゃない?」
「そっかー」
加納はSNSを確認する。どうやら、一部の客がこの惨状をアップしているようだ。リポストもすごい数になっている。
人々を襲う半魚人。殺される男性。投網で引きずられていく男女等々、惨憺たる光景だ。
そして、彼が南方昴に連絡を入れようとしたその時、、バリケードの方角から声がした。
「警察の者です! 皆さんを救助しに来ました!」
「やったぞ! 助けが来たぞ!」
生存者たちが安堵する。加納も友人たちとうなずきあった。
その後、バリケードの向こうで待機していた警察の誘導で、避難が始まった。負傷者を優先し、加納達のように無傷の者は後になる。
もらったハンバーガーを口にしていた加納は、誘導している警察の中に水戸瀬の姿を認めた。コーラで無理矢理ハンバーガーを流し込む。そしてむせた。
「み、水戸瀬さん」
「お前、加納か。そう言えば昴と一緒に来てたんだっけな。無事でよかったぜ」
「昴は?」
「港区方面のバリケードを粉砕しに行った。もう戻ってくる頃合いだろ」
水戸瀬と話し込んでいると、友人たちがやってきた。警察の姿にテンションが上がっているようだ。
「すげー。加納お前警察の人と知り合いだったのかよ」
「まあな」
「一体、何が起こったんですか?」
「まあ、見ての通り半魚人の襲撃だな。延喜区の入り口は奪還したし、制圧作戦も続いてる。後は警察の方で何とかするから、君たちは避難誘導に従ってくれ」
「わ、わかりました!」
加納の友人たちは敬礼してから避難誘導に加わる。それを見届けた水戸瀬は誘導を他の警官に任せると、少し離れた位置に加納を連れて行った。
「一応お前には詳細を伝えておく。これは“深きものども”の襲撃だ。おそらく、“ダゴン秘密教団”というカルト宗教の仕業だろう」
「な、なんだよそれ」
「カナカイ族という、ポリネシアに住んでいたと言われる部族がいてな。そいつらが崇拝していたのが深きものどもという、邪神の眷属だ。そして、カナカイ族を通じて知識を得たとある男が、深きものどもやその主人たる邪神と契約して組織したのがダゴン秘密教団。とあるホラー作家の作品にも出てくる、名前だけなら割と有名な組織だ」
「作品って、要はフィクションの世界で有名、ってこと?」
「ああ。実在する組織なんだけどな。こういうのは下手に隠蔽するよりも、フィクションとして公表してしまった方がいい時がある。その方が余計な腹は探られないからな」
「そ、そういうものなのか」
深きものども。その名を加納は深く刻み込む。自らが初めて殺した、邪神の眷属。
とはいえ、偶然が重なっているのであまり自覚はないが。
「というかダゴン秘密教団の本部って、滝塚市にあったのかよ」
「いや。本部はアメリカ北東部にある。今はどれだけまともに活動しているか知らんが。滝塚にあるのは支部だ。他にも世界各国に支部があると言われている」
「嘘だろ!? 無茶苦茶巨大な組織じゃん!」
「深きものどもは数だけは多い。だが、昔に比べると人間側の戦力も充実しているから、危険度は年々落ちているんだ」
加納が何となく納得すると、遠くで爆発が起こった。おそらく、シニョン・プレフォールズの港区側の入り口からだ。
「お。昴が敵の防衛線を突破したみたいだな。中から壁ぶち抜いてもらったのも含めて、フル回転してもらってるからそろそろ休んでもらうか」
「わかった。昴のことは任せろ」
「ついてくる気かよ。大人しく友人たちと避難しててくれねぇか?」
「昴がいるんだろ。あいつの傍にいてやりたい。俺がいれば嫌でも気が向くだろ」
「……そうだな。じゃ、任せたぜ」
水戸瀬と加納はがっちり握手する。そしてバリケード跡を超えて港区出口方面へ向かった。
――続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます