第3話 滝塚市九紫ビル事件―エピローグ

 加納聖が南方芳野を救出した三日後。滝塚市にある九紫ビルの三階、占い師の館にて。志村針巻はビー玉のようなものを三つ、テーブルに並べていた。

 透き通ったガラスの中に、吹きすさぶ風、割れる大地、燃え盛る炎が見える。

 彼はそれを手に取ると、巾着袋にしまって口を閉じた。そして、椅子の背もたれに体重を預ける。


「……今回は何者かの介入により、首尾よくこれを手に入れることができました」


 彼は筮竹を手に取ると、占いを始めた。結果は良くなかった。それを確認してから一度嘆息する。

 黒い皮手袋で額の汗を拭う。そして、額に貼り付いていた長髪を軽くかきあげる。


「ですが、介入してきた者はあまりに強大で邪悪。私の手に負える相手ではない」


 志村は立ち上がると、壁際に向かい、隠し通路のスイッチを押した。壁の一部が回転し、通路が姿を現す。

 彼はその先の小部屋に向かう。広さは十畳程度。陰陽道を元とした魔術で作り上げたこの空間は、彼が唯一心安らげる場所。机と椅子、そして風水にちなんだ小物が配置された部屋だ。


「力が、必要です。歴史をあるべき姿に戻すために」


 志村針巻は机から刃物を取り出すと、指先を切った。そして、自らの血を吸わせてきた呪具に、更なる血を与える。呪具が鳴動する様を、彼は無表情に見つめていた。


                                  ――続く

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