第2話 滝塚市黄海山事件―エピローグ

 数日後。滝塚市立紅葉台高等学校の校舎二階にて。廊下で偶然出会った加納聖と中島春香は、二人で窓の外を眺めていた。春の日差しが眩しい。校庭には昼連をする運動部の姿が。


「それで、結局腕はどうなるんだ?」

「まだ、元通りにする方法はわからないって、南方さんが」

「……そっか」


 加納は思い出す。謎の女性に蹂躙されたのち、涙を流しながら自らを助け起こしてくれた南方昴の姿を。自分を責め、何度も謝罪し続けたその泣き顔を。


「加納君は、その、何かヤバい印をつけられちゃったんだっけ? 大丈夫なの?」

「ああ。でも、見える人と見えない人がいるみたいでさ」


 加納はワイシャツの第二ボタンを開け、中島に首筋を見せる。彼女は一通り加納の首を観察すると、訝しげな顔をした。


「どう? 見える?」

「……私には、何も見えないかな」

「なら、そういうことか」

「どういうこと?」


 一人で納得する加納に、むくれる中島。加納はそそくさとボタンを掛けた。


「昴とも話したんだけど、これ、一定以上の魔力がある存在にしか見えないんじゃないかって。例えば、俺の両親とか、友達とかは見えないんだよ。だけど、昴とか、昴の魔術の師匠とかは見えるんだ」

「そっか。私も腕が武器になるだけであって、その、魔力が強いわけじゃないんだね」

「そう。だから中島はごく普通の人間と言っても過言じゃない」

「なにそれ。慰めているつもり?」


 中島が笑った。助け出された直後からは想像もできないくらい、彼女は立ち直っている。


「取り換えられるなら、俺の腕と交換してほしいよ」

「ちょっとごつくなりすぎるから、私は嫌かな~」


 それが生来のものなのか、はたまた環境が良かったのかは、加納にはわからない。ただ一つ言えることは、南方昴がまた誰かを救ったのだ。自分も、その一助になれた。


「今度さ、昴と会ってやってくれない? あれ以降元気ないんだよ」

「うん! あの後SNSでしか話していないから、直接会ってお礼言いたかったんだ」

「は?」


 加納が硬直する。今聞き捨てならないことを聞いた。


「何で中島は昴の連絡先知ってるの?」

「病院で検査受けた後に、腕の事で色々と伝えることがあるから、って。SNSでも敬語使っているから、もっと緩い文章でいいよ、って言ってもなかなか変えてくれなくて」

「ずるい! 俺にも教えろ!」

「やだ。自分で聞けばいいでしょ」


 二人は廊下を駆けていく。そしてその後、教師に見つかり説教を食らった。



                                  ――続く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る