挑戦と挫折と人の優しさが、丁寧に、かつドラマティックに描かれた、心地よい余韻の残るお話です。
物語は企業家の榊一人と、小説家の一ノ口豊が炊き出しのボランティアの場で出会うところから始まります。ブロマンスということで、この二人の関係性の変化を追いかけていくのももちろん楽しいのですが、もっと大きな枠で、人と人との出会いと別れや、縁について書かれている作品のように感じました。
成功している社長のきらびやかな姿の裏には悲しい過去があって、外向けの穏やかな顔の内側には、子ども時代の消えない悲しみと憎しみが渦巻いています。上り調子の時に良い顔を向けてきた人たちには冷たい一面がありますし、悪意や打算の報いが善意で返ってくることはありません。
現実なんてそんなもので、どうにもならないことはたくさんあるのだと思いますが、それでも世の中捨てたもんじゃないのだとこのお話は教えてくれます。
誰かのほんの少しの妬みと悪意から生じた不幸な状況は、また別の誰かの、ほんの少しの憐れみと善意によって差し伸べられた手で救われるのです。
出会いを通して変わっていく主人公を見ていると、読んでるこちらまで前向きになれます。人間ドラマがお好きな方、ぜひぜひ読んでみてください!