貫く価値は存在する』

 前方から獣型レギオンが突進してくる。

 単なる突進なら回避は用意だ。

 転生してから数え切れないほどの修羅場を、抜けてきた私にとってイノシシごとき、敵ではない。


 単なるイノシシだった場合だが――。


「くっ……!」


 かつてフォラスだった獣が壁に衝突すると、部屋中に赤いガスが充満した。

 同時に体が若干しびれる。


 これ吸いすぎたら死ぬやつだぁー!


「フォラス、私は生身なんだぞ。少しぐらい手加減しろ」

「無理ですよ。今からでも私の提案を、呑んでくだされば話は別ですが」


 再び突進が飛んでくる。

 こちらは突進を回避しつつ、赤色のガスを吸わないよう注意せねばならない。

 幸い先ほどの突進によって窓が破壊されたおかげで、部屋中にガスが充満する恐れはなくなった。


「訳が分からない。外星の使徒フールド・アポカリプスの目的と私になんの関係があるの……?」


「だから貴方が邪魔だからだと言っているでしょう。我々の目的は皇帝が、作り上げた偽りの歴史に終止符を打つことです。そして、皇帝の計画を完成させるには貴方が必要だ」


「待って……!」


 皇帝?

 計画?

 偽りの歴史?


 私の叫び声を聞いたフォラスは攻撃を、止める。


「その話……詳しく聞かせてくれ」


 フォラスが攻撃をやめたことで、部屋中に溜まり続けていたガスが外へ漏れだした。

 段々体の痺れが抜け始める。


「外来者である貴方は知らないかもしれないが、この世界は連合国が崩壊した時点で終わりが決まっていたんだ。文明も生命体も消滅し、歴史はカオス初期化からやり直されるはずだった。なのに……あいつが、皇帝が全てを変えたんだ。歴史は改変されレギオンとの長い戦いが始まった」


「えーと、それのどこが悪いんだ? に皇帝陛下は、本来滅ぶはずだった歴史を変えて『今』を作り上げたんだろう? つまり救世主だ」


「それは、どうでしょうか。現在、帝国に支配された知的生命体は、絶滅から守られるかわりにレギオンとの戦いを強いられています。自由はありません。そして、滅びの運命は変わりません。運命は変わらないのに、抵抗だけはさせられる。なんと不幸なことか……」


「不幸じゃないよ!」


 足を蹴り上げ、管制室の扉に向かって移動する。


「たとえ先に待つ結末が、どれだけ不幸でも。未来を望む意思があるならば。一分一秒を生きたいと願い、抗うならば、これは不幸じゃない。というか誰だって死ぬのは嫌でしょ!」


「完全に交渉決裂のようですね」


 フォラスが扉に向かって突進する。


 その衝撃で扉と壁に、巨大な穴が空いた。

 素早く穴から廊下に出て、愛刀を回収する。


 師匠から頂いた愛刀。たとえ刃こぼれしても手放すつもりはない。


「アステルさん、貴方は自分が正義の味方だと勘違いしていませんか?」


「していないよ。たとえ私の正義が偽りでも……貫く価値は存在するから」



 頭上で刀を抜き、一振りする。

 すると、前方に紫色の閃光が走った。



「いいねぇ、かっこいいじゃん!」


 その時、頭上から聞き覚えのある声が一つ。え、頭上……?


 顔を上げると、いつの間にか研究所の天井がブチ破られていた。

 穴の先で、こちらを見下ろしていたのは、全身に炎をまとったジュナだった。


 

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