お手。お座り。ハウス!

 誰よりも早く中型戦艦から下船する。

 降り立った瞬間、足元を深い雪が覆い、冷気により息が白くなる。


 吹雪に包まれ視界で無数の光が揺らめいている。


 蛍?

 街頭?


 いや、どれでもない。

 あれは目だ。高さ三メートルはあるであろう巨大戦闘機の目。

 私の前に立ちはだかる巨大戦闘機は、機械というより生物に近い容姿をしていた。

 四本の足が接続している胴体。その先には、長方形の頭。

 その姿はまるで――。


「犬?」


 犬そのものであった。

 高さ三メートルの犬というのも、中々ホラーであるが……。

 戦闘機のうち数体が、こちらに飛びかかってきた。


 重力による自由落下。

 軌道を読むことは容易い。


 回避をする――と見せかけて、落下時点の下へ周り、刃を天へ向ける。そのまま、犬型戦闘機を下から一突き。


 刃が戦闘機の体を貫いたことを確認し、素早く落下時点から離脱する。


 体を貫かれた戦闘機は、苦しむように体をうねらせてから、その場に倒れ込んだ。

 その様子を見た他の戦闘機は、怯えるように体を縮め、こちらを見つめる。


――怯えている。どういうこと?


 倒れた戦闘機に近づき、魔法で体に微弱な電流を与える。

 苦しめる為ではない。痛覚を遮断する為だ。これは紫電直伝の技で、戦闘時負傷によりどうしても動けなくなった際に、痛覚を遮断するものだ。

 とはいえ痛みが失せる代わりに、動きが鈍くなるので極力使用しない方がいい。


 魔法を使用した戦闘機は、ゆっくりと起き上がる。襲われる可能性を考慮し、刀を構えたが、彼等が再び襲ってくることは無かった。


 犬型戦闘機達は私の前に座り、そのまま頭を垂れたのだ。そして、他の戦闘機も、ぞろぞろと、こちらに集まってゆく。


『E12。ご無事ですか? 先程から戦闘機共が貴方の方へ向かっていますが、何かありましたか?』


 耳元の通信機から、戦闘中であろちあ部下の声が響く。


「うーん。私もよく分からん」


『どういうことですか?』


 犬型戦闘機は徐々に増えてゆき、三十機ほまどまで集まった。最初より随分と数が減ったが、集まらなかった分の戦闘機は帝国軍が破壊したのであろう。



 それにしても、この犬らしき見た目と行動……まさかね。


「伏せ!」


 試しに犬の芸として定番な「伏せ」を命じてみる。すると、戦闘機達は次々と体を伏せていき、三十秒後には全機「伏せ」の姿勢となった。


「ねぇ、シド」


 付近で飛行している黒い球体へ話しかくかる。


『こいつらの分析なら今している所だよ』


「そうか。感謝する。それにしても、こいつら……まさかセラピー用に作られた機械だったりするのかな?」


『だとすれば、お前は全長三メートルのセラピー用機械共に、癒すべき対象として見なされたことになるな』


「なにそれぇー、全然嬉しくないんだけど……しゃなかった、あまり喜ばしくはないぞ!」


 ひとまず、この戦闘機達に言語を解する機能があることと、現在は敵意が無いことが分かった。

 ならば、やるべき事がある。


「貴方達。この辺りに研究所はない?」


 こちらの質問を聞いた戦闘機達は一斉に立ち上がり、巨大な山がある報告を向いた。


「そっちに研究所があるの?」


 再び問いかけると、戦闘機達は一斉に頷いた。ここまで揃った動きをされると逆に怖い。


『アステル』


 しばらく傍を離れていた球体からシドの声。


「何か分かった?」


『あぁ、撃破された戦闘機を解析してみたら興味深い結果が出たよ。恐らくコイツの開発者は僕よりもイカれているね』


「自称天才マッドサイエンティストの貴方よりイカれているの?」


『そうだよ。本当にイカれている……というか一言余計だ』


 シドは咳払いしてから、また話し始める。


『コイツらの制御機構には、本物の生物から摘出した物が使われている。平たく言えば体を機械化された生物だ』

 

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