七つの罪過
中型戦艦のメインコックピット。
視界を覆うほどに大量のモニター画面の中を、黒衣に身を包んだ人々が歩き回っている。時々、何やら独り言を呟いているような人がいるが、おそらく耳に装着した通信装置を使用しているだけであろう。
そして、その中央、一番目立つ席にて私とジュナは何もせず見守っていた。
「無事クルベータ
「そうか。ならば、そのまま作戦通り、全機目標付近に着陸してくれ」
「はい。審問官様」
E1から受けた指令――クルベータ
私とジュナ及び、それぞれの小隊が乗った船は思いの外あっさりと目的地付近へと接近することが出来た。
そう余りにもあっさりと。
ここまでくると敵の罠ではないか疑いたくなる。
この事実について意見を聞くべく、隣で熟睡しているジュナを起こそうとしたが、同時に耳元の通信装置が鳴り響いた。
応答した結果、耳元で聞くことになったのは、全く緊張感の無い少年の声。
『やっほー。調子はどう?』
シドだ。
「今の所は大事ない。そちらは?」
『こっちも完璧だよ。例のブツを起動して』
「分かった」
乗船した時から、ずっと膝上に乗せていた物体を手に取る。
それはテニスボールサイズの黒い球体で、表面に赤色のボタンが一つ着いていた。任務前にシドから渡されていた物だ。
ボタンを押し電源を入れると、球体は空中へ浮き、私の正面で静止した。
「これは何だ?」
『こいつはね、僕がアステルのサポートをする為に開発した万能アイテムでーす』
「もっと具体的に説明してくれ」
『あぁ、そうだね。端的に言うとコイツは僕の代わりだよ』
「シドの代わり?」
『そう、その通り。本当は僕が現地に行ってサポートしたかったんだけど。ほら、僕は非戦闘員だし、戦闘というよりは技術担当じゃん? だからコイツを使って周囲の状況を把握したり、ハッキングをするつもり』
「なるほど、多分理解した」
『多分ねぇ……。まぁ、いいか。最終確認として君のバイタルを確認したけど異常はなかったよ。メンタルの方はどう?』
「うーん、少し緊張するかな……」
『おやおや、
彼の言う通りだ。
私が
少なくとも、今まで
しかし、それでも――。
「それでも全ての因子使いと交戦した訳じゃないし……」
『確かに――それもそうか』
因子は概ね七種類。
一つ目に
私とシデンが取り込んでいた物だ。
これを取り込む事で引き出される欲望は『力への渇望』。シドいわく『力』は物理的な物ではなく、抽象的な物で『権力』や『暴力』など、とにかく他人を押さえつけて従えられる『何か』だそうだ。
シデンが生涯をかけて『強さ』を求め続けた原因は、因子によって『力』に飢えていたからであろう。
二つ目に
物語の主人公であるサランが持つ因子。
対応する欲望は『信念の正当化』『誰かを救う事で自己肯定感を上げたい』。
三つ目に
ルナベルいわく、ブラフマが所有している因子は
対応する欲望は『羨望している対象への同一視』『自身より優れている存在を蹴落としたい』。
四つ目に
曇花の因子だ。
対応する欲望は『現実逃避』『何もしたくない』。
五つ目に
対応する欲望はとにかく『欲しい』ということ……らしいが、適正者が少ないので詳細は不明とのこと。
六つ目に
対応する欲望は『生理的欲求の解消』。
最後に
かつてルイーズが取り込んだ因子。
対応する欲望は『承認欲求』。
各因子にそれぞれ特性があり、取り込んだ際に使える権能や、反応にも個人差がある。
ただ一つ共通していることは、いずれも使用するには、因子に意識を取り込まれないよう自身を律さなくてはならないということ。
『それでも相手の特徴や戦法は実際に対峙しなければ分からないし、それを見極める能力に関しては君はずば抜けた才能がある』
「本気で言ってるの?」
『もちろんだとも。天才である僕が保証しよう。それじゃあ健闘を祈る。秩序の名のもとに』
「ありがとう……じゃなかった。感謝する、シド。秩序の名のもとに」
通信を切ると、私達が乗っている船はあっという間に着陸態勢へと入っていた。
戦艦内の慣性はある程度キャンセルされているが、離着陸の際は話が別だ。
毎回、体がフワフワしているような感覚に襲われ少し気持ち悪くなる。
「無事着陸いたしました」
コックピットの先端に立っていた
そして私とジュナが素早く、立ち上がり素早く出入口へと向かった。
そこではもう既に出撃メンバーが集まっており、船が停止次第すぐに外へ出られるよう準備が整っていた。
しかし、まもなく船が静止しそうになった、その刹那。
耳元の通信機から再び鳴り響く。
今度はシドではなく、コックピットからの通信だ。
「審問官様。本艦付近に百機ほどの歩行型戦闘機の反応が現れました」
ほら、そんな事だと思った。
やはり罠だったか。
「どうする愚直なお姉さん?」
隣からジュナの声。
「そんなの決まっているだろう。立ち塞がる物は、すべからく蹴散らすだけだよ。図々しいガキんちょ」
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