鉄分たっぷり。緑の野菜
「E12。貴方はこちらにお座り下さい」
狐耳の青年が座れと指示したのは、会議室中央にある円卓――その中でも一番扉側に近い席であった。
ドーナッツ型をした白銀の円卓には、義母であるルナベルや小動物好きのブラフマ、そして廊下で遭遇したワルプルギスとジュナを含めた審問官が勢揃いしている。
これが前世の世界なら、階級が一番低い私から席に着くべきなのだが、ルイーズいわく、審問官の序列はリーダーとサブリーダーである一位と二位以外は形式上の物で、誰も座る順番など気にしていないらしい。
「これより定例会議を始める」
私が席についてから十秒後、一番奥の席に座る男が口を開いた。
いや、厳密に言うと彼が口を開いているのかは分からない。
なぜならば彼は覆面をしているからだ。
更に覆面といっても、宴会芸で使うような布製の物ではなく、金属のような固い素材で作った防具に近い物。戦艦の壁のように真っ黒な覆面――その目にあたる部分は赤色の光を放っている。衣服も軍服ではなく漆黒の装甲に包まれていた。
彼の姿を見て感じる感情は単純。
怖い。恐ろしい。
最高司令官やブラフマに初めて遭遇した時ですら感じなかった感情だ。
「見ての通り空席だったE12が埋まった。これにより審問官の人数は十二人に戻った。では、いつも通りE2から報告を」
会議を仕切っている様子からして、あの男が審問官第一位、すなわちE1だろう。
報告といっても何を話せば……。
他メンバーの報告内容は、任務経過や身体の治療状況についてだった。
報告の細かさも人それぞれで、ジュナに至っては「昨日、E2から頼まれていた仕事が終わったよ。以上E10のからの報告です。ねぇ、お腹空いたからお菓子食べていい?」などという自由極まりない物だった。
はて、どうしたものかと困惑していると、後ろで控えていたルイーズが耳打ちしてくれた。
「アステルさんは何も話さなくていいですよぉ」
どうやらルイーズの言葉は本当らしく、E11が報告を終えると再びE1が話始める。今度は次の定例会議までに各自が行うべき行動だ。
「そして、最後にE12」
「はい」
「お前はE10と共にデーヴァ星系のクルベータ
「承知いたしました」
他のメンバーが各々適当な返事をしている中、一人だけ「承知いたしました」などと返すのは、いささか恥ずかしいが、だからといって新人の分際でワルプルギスのように「おっけー。おっけー」などと返す訳にもいかない。
それにしても任務の詳細は、E10――子供であるジュナから聞かなくてはならないのか……。嫌な予感しかしない……。
★
帝国標準時間、午後三時。
定例会議が終わり、ジュナと私だけが残る。
そして、今まで私が抱えていた心配事が全て杞憂であったことを思い知らされた。
「まずクルベータ
「質問しかないぞ」
こちらとしては子供の語彙力でどこまで任務内容が伝わるか心配であったが、どうやらもっと心配するべき点があったらしい。
それは、ここまで小さな子供が、相手の視点に立って分かりやすく説明できるのかということ。
「まず、これが『上からの指示による任務』だというのはどういうことだ?」
「えーと、それはね、通常、審問官の任務は皇帝陛下の代理である最高司令官とE1が決めるけど、今回は特例で上層部から僕達に届いた指令だということ」
ジュナが首を傾げる。
すると、彼の髪――否、羽毛が服に落ちた。服自体が黒い修道士のような見た目をしているせいで、彼の羽毛が天使の羽に見えてきた。
「どうして、そのようなことを?」
「さあね。分かることがあるとすれば、不幸なことに僕達は上層部の思惑に巻き込まれた可能性があるということかな」
「そうか……では、クルベータ
「一年中雪が降っている馬鹿みたいに寒い惑星だよ。昔、ワルプルギス姉さんとクルベータ
雪人形とは雪だるまのことであろうか?
子供がやりたいことは、古今東西、銀河の果てから異世界まで同じらしい。
「それじゃあクルベータ
「ホウレンソウ……ヒユ科の植物か?」
「なんか違う気がするけど、多分そう。それじゃあ、僕はお昼寝するね」
ジュナはスナックの袋をつまむと、そのまま会議室から出ていった。
「また任務で会おうね。愚直なお姉さん」
「あぁ、また会……おい、今何と言った?」
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