『貴方が優しい子に育って良かった』
均一に並ぶ丸い窓。
暖かみのあるブラウンの壁。
状況を報告し合う看護師の様子はまるで戦場にいる兵士のよう――いや、確か彼等は医官という扱いのはずだ。
つまり帝国軍に属している。
「ルイーズが討伐されてから帝国軍内では君の扱いについて議論を呼んでいるよ」
「例えば?」
「君を『フランドレアを救った英雄』と見なすか『待機命令を無視した秩序の背徳者』として見なすか」
「結果的にフランドレアを救えたのだから別に良いではないか」
「一つの例外も許せないのが秩序というものだよ」
「ちぇっ」
帝立軍事病院の廊下をシドと共に歩いていると、やがて屈強な警備員に守られた病室へと辿り着いた。
警備員にIDを見せ、中に入れてもらう。
病室の中央に置かれたベットに横たわるのはルナベルだった。
「ただいま。お母様」
「えぇ、おかえり。アステルとシド」
フランドレアで見せた死神のような姿はどこにもなく、美しい妖精の羽が生えたいつも通りの姿である。
それにしても――。
「あのー、お母様お怪我の方は?」
「ほとんど治っちゃったわ」
衝撃の事実に対し思わず耳を疑う。
待て、そもそも耳を疑う必要など無い。
目に映る景色こそが真実だ。
強力な魔法攻撃を受けて、本来なら粉砕されるであろう彼女の体は、わずか三日で元通りとなっていたのだ。
「それは良かった……のですが凄い回復力ですね。これもお母様の魔法が関係しているのですか?」
隣で
「ルナベル様の権能は魔法では無いよ」
ふむ。そういえばルナベルは戦闘中「あら、私は
つまり――。
「お母様は
ルナベルが首を縦に振る。
「そうよ」
肩の力が抜ける。
どおりで今までルナベルが魔法を使っている場面を見たことが無い訳だ。
「私がまだ貴方ぐらいの歳だった頃。銀河の片隅にログレシアという惑星があったわ。私の出自であるラモノワール家はそこの貴族だったの。貴族と言っても素行の悪い没落貴族でね。ある日、家長である父から、暴力を振られた従者が、仕返しとして私にレギオンの残滓を食べさせたの」
「因子ではなく残滓ですか?」
「えぇ、残滓を摂取した私はもはや
「もたらそうとしたということは実際は被害が無かったのですね?」
「そうよ。暴走する私をシデンさんが止めてくれたの。その上で私が帝国軍に殺害されぬよう口添えしてくれた」
ルナベルがニッコリと笑う。
「だから私にとって、シデンさんは命の恩人なのよ」
★
知らなかった。
ルナベルにとって師匠が、恩人であったことなど。だとすれば、ルナベルは、本当は、私のことを道具だと――。
病室から出ると、窓辺から夕日が差し込んでいた。
耳元の小型通信機から、着信が来たことを告げる音声が鳴った。
発信元はシドである。
『用事が終わったら研究所に来てくれ』
「なぜだ?」
『待ち人がいる』
待ち人?
はて、あの研究所に待ち人など居たか?
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