ちょっくら惑星一つを救いに来たよ
凄まじい風の音と共に落下する体。
徐々に広がる氷の霧。
さて、私が落下した塔は五階建てだ。
今から体を広げて空気抵抗を増やしたところで無駄だろう。
必要最低限に被害を抑えるならば、せめて足から落下すべきだろうが、今はルイーズの元へ戻ることが最優先だ。
ならば壁に刀を突き立てるしか――。
絶体絶命の状況下。
何故か私の思考は限りなく冷静だった。
人間は、切羽詰まると逆に冷静になると言うが、本当らしい。
体を捻り、壁に刃を突き刺そうとした。しかし、それより前に何者かが私の体を掴む。
「因子を取り込んだばっかりの個体相手にこのザマだなんて――シデンさんも私も貴方をこんな軟弱な子に育てた覚えはないわ」
桃色の髪、見た目を重視した制服。
落ちゆく私を助けたのはルナベルだった。
しかし、見慣れた姿はどこにも無い。
首筋まで黒く変色した体。
背から吹き出る血のような液体が羽の形になっている。そして極めつけは右手に握られた
「お母様が
「あら、私は
ルナベルが口角を上げる。
「それよりも、後は私に任せなさい。貴方は待機……」
「私も行きます。理由は後で話しますから、どうかお願いします」
そう。ルイーズの討伐にルナベルを向かわせる訳にはいかない。これが
「分かったわ。死んだら許さないからね」
「はい。分かっています」
★
ルイーズが放った氷の粒は赤く変色し、禍々しい姿へと変貌していた。
粒に当たった鳥が血を流しながら落下してゆく様子が見える。
粒が当たれば確実に致命傷となる……あるいは即死か。
再び屋上へ登ると、屋根の上を伝いながら研究施設の外へ歩くルイーズの姿があった。
「まずいわね。この赤い粒に当たった生物が
「このまま研究所の外に出す訳にはいきませんね」
「それにあの先にはエネルギー発電所がある。このままだとフランドレア全体が……」
ルナベルが最後の一言を発する前に、私の足はルイーズの方へ駆け出していた。
四方八方から迫る氷の粒。
今までは仮に集中攻撃を受けても、被害を最小限に留められる箇所を見つければ良かったが、今回なそのような訳にはいかない。
この場において負傷は死を意味する。
「ルイーズ!」
金色に変色した髪。全身を包む薔薇の痣。
全身を白銀色の膜が包む。
姿を変えたルイーズはこちらの声に気づくと、こちらへ振り向き右手を構える。
嫌な予感がし、左側へ体を捻らせると、ルイーズの右手から無数の魔法陣。そして、強い熱を帯びた光の柱――すなわちビームが飛び出す。
そして、ビームの標準はピッタリと私の心臓を狙っていた。まるでこちらの回避行動を予想していたかのようだ。
――嫌だ。まだ死にたくない。
――やっと、病室から出られたのに。
――まだ、何も成していないのに。
辿り着くべき場所は、ここでは無い。
絶望に駆られたその数秒後、右側から強く体を推される。右手側を見てみれば、私を庇うルナベルの姿があった。
「アッ……アァ」
口から声にならない叫び声が漏れる。
「私のことはいいから走りなさい!」
ビームに貫かれる体から、叫ぶような声。
『何へこたれてんだよ。この馬鹿弟子ぃ!』
脳内に今ではもう懐かしい声が響く。
そうだ。やるべき事を成さなければ。
直ぐに、姿勢を立て直しルイーズとの距離を詰める。
こちらの存在に気づいたルイーズが、こちらに視線を向ける。
「待たせたな。白艇の王子様だ」
こちらを睨む瞳には一筋の光も無い。
あぁ、いつの日か曇花が言い放った「本当に心があるように見える」という発言をルイーズは嫌がっているように見えた。
よくよく考えれば当然だ。
何故ならばこの言葉は、ルイーズに心が無いことが前提になっている。
そして海姫の童話――きっと今までルイーズは
だからこそ私は、ここで君を止める。責任を果たす――!
全身から力がみなぎる。
足元から髪先まで因子の魔力で満ちてゆくのを感じる。
そして、ビーナッツ色の髪がシデンのような薄紫に変わってゆくのが見える。
「形勢逆転。ここからは反撃の時間だ!」
こちらの変化に気づいたルイーズが、氷の盾を複数出現させる。もう遅い。
雷を帯びた刃は、ルイーズのメイン制御モジュールを切り裂いた。
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