新たな一歩を
「ところで、私という二人目が産まれたことで計画は成功した訳ですが、次代――すなわち三人目以降はどうするつもりですか?」
「君を原型として大量に複製する予定だよ」
正気で言っているのか?
自称マッドサイエンティストのシドよりコイツの方が狂っている。
「えーと、私は君にとって血統上の父に当たるという話をしたのに――少しぐらい驚かないのか?」
「うーん、強いて言う事があるならば――私は貴方のことを上官としては尊敬していますが、父としては大嫌いです」
最高司令官の表情が、何かつまらない物を見るかのような表情になる。
「そうだろうな。さっき君の瞳に宿っていた感情は殺意と怒りそのものだった」
「ここで私個人の意見を述べる権利はあるのでしょうか?」
「構わないよ。ここでは誰も聞き耳を立てていないからね」
「正直に申し上げますと、私はこの計画に賛同しかねます。だって、このままでは多くの人工生命達が兵器にされてしまいますから」
「なら君が私を蹴落として計画の責任者になるしかないね」
「それは本気で仰っているのですか?」
「本気だよ。私はいつだって本気だ。為政者を暗殺しても、新たな為政者が現れるだけ。ならば自らが為政者となるしかない。自明の理だ。私は貴官に期待をよせている」
最高司令官は試験室から廊下へ出る扉を開けると手招きした。
「閣下、最後に一つ質問があります。師匠は……シデンは何処ですか?」
「もしかしたら君の背後かもね?」
背後?
私の背後には大量に並んだカプセルしかない。
まさか――。
「この試験室のカプセルの中に師匠が?」
「そうかもしれないな。この部屋に並ぶカプセルには因子反応の影響を受けた遺体が納められている。無論、研究の為にね。遺体の様子は見に行かないことを勧めるよ。彼女は君に最後の時を見られくは無かったようだから」
「師匠の最後に立ち会ったのですか?」
「いいや、私が彼女の身柄を確保しに行った時にはもう息絶えていたよ。長らく身体検査を受けていないことからも何となく察しはついていたけが、体が因子に侵食されすぎて寿命が近かったようだな」
死を受け入れた師匠は惨めな己の姿を見せないために、訓練という形で私を引き離したのだろうか――あるいは、因子を渡したところで私が素直に受け取らないと考えたのか。
「そうだ。そういえば紫電の
宝石の裏?
一瞬、何のことのか全く理解出来なかったが、冷静に考えれば何のことなのか一瞬で理解することが出来た。
父が残したペンダントを取り出す。
確かこのペンダントには宝石が埋め込まれていたはずだ。
しかし、答えがあるのは宝石本体の裏では無い。恐らく宝石の下側――ペンダント本体の裏側だ。
ペンダントの裏側には小さな穴があった。
今までこの穴はペンダントを分解する際に用いるものだと思っていたがもしや――。
穴を覗き込むと案の定、そこには文字が刻まれていた。
怖がらないで。
大丈夫だよ。
これは『失う』為の旅路では無い。
『失った』ものを取り戻す為の旅路だ。
私の魂は因子の中でずっと見守っているよ――アステル。
頬に一筋の涙が伝う。
――もう。こんな遠回しな方法なんて使わないで素直に言ってくれれば良かったのに。
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