食欲は三大欲求ですし
ティエン・シャンの都市部から離れた山道。木々に覆われた森には相変わらず霧に包まれている。
さらにその霧は都市部から離れれば離れるほど濃くなる傾向があり、サランによればティエン・シャンの人々は意図的に霧が薄い場所に定住しているとのこと。
さて、濃霧の中で誰かが迷ってしまっては一大事――とのことで隊列を組み移動する事になったのだが……。
「うぇぇ、お化けとか出てきそぉ」
一番後ろに並んだルイーズがグイグイ押してくるので、まともに進め無い。
「ルイーズ……悪いが、押さないでくれ。躓いたら洒落にならん」
「すっすみません!」
背後からルイーズの叫び声が響く。
「ルイーズさん。背後が心配でしたら、僕が変わりましょうか?」
そして相変わらず紳士的なサランの声。
時々叫ぶルイーズの声が耳障りなのか、うなり声を上げているのはシドだろう。
蝶恋花の店番をしなくてはならないユウミンは結局調査へは同行しなかった。厳密に言うとサランがユウミンの同行を拒否した故なのだが――実際アニメでもユウミンの戦闘力は限りなくゼロであったので、こちらとしても店番をしてくれている方がありがたい。
それにしてもサランの方から香ばしい匂いがするのは何故だろう?
蝶恋花の厨房に籠もっていたせいであろうか。
「わぁー、ありがとうございますぅ」
相変わらず気が抜けた返事をするルイーズに何か言うべきだと思い、口を開いた――その刹那。
周囲を取り巻く冷気に変化。
――風の流れが変わった?
いや、違う。
何かがこちらへ向かって飛んでくる。
『神器を狙う愚者か?』
頭上から男性の声がする。
しかし霧のせいで、その姿は目視出来ない。
『あるいは我の瞑想を妨げる刺客か?』
声に釣られ視線が上がると、それを狙ったかのように前方三方向から霧の刃が飛来する。
「全員待避――!」
指示を出すと共に、霧の刃を全て切り裂く。
その後も連続して刃がこちらへ飛来する。
攻撃者の姿は見えない――それでも刃の軌道から居場所は推測できる。
体内に取り込まれた因子から流れるエネルギーを己の瞳へ集める。
そして攻撃者がいるであろう場所へ
そう、雷さえ落としてえば一発だ。
一億ボルトをほこる、それは文字通り一撃必殺の魚雷となる。
意識を上空へ集中させたその時だった。
「待って下さい!」
いつの間にか隣で立っていたサランが叫ぶ。
なんということだ。彼に話しかけられるまで全く気配が無かった。
彼が意識して気配を消したのかどうかは分からない。
少なくとも言える事は、少年には似つかわしく無いの戦闘におけるセンスを彼は持っている。
「僕に考えがあります。だからどうか天仙様を攻撃しないで下さい」
そういえばその様なことを居酒屋で言っていたな。
「分かった。君に任せる」
「はい!」
ここまで自信があるということは、きっと素晴らしい妙案が彼にはあるのだろう――。
「天仙様。貴方の為に蝶恋花の蒸し春巻きを持って来ました!」
期待した私が馬鹿だった。
前言撤回させてくれ。
数百年神器を守る
「蝶恋花は千年続く老舗です。特に蒸し春巻きは絶品で――」
「知っている」
こちらの予想とは裏腹に、周囲に広がっていた霧は跡形も無く雲散した。一人の男性が姿を現す。
背に広がる羽と尖った耳は一般的な仙人の特徴だ。
しかし彼が纏っている服は何と言うか――古くさい。
青白い髪は金色の簪でまとめられており、全身を包む白い着物の上には蓮模様の上着。目はユウミンと同じように茶色の布で隠されており、両足は包帯で拘束されている。
着物の袖やら襟の隙間から覗く蓮模様の痣は、全身が腐化していることを暗示していた。
「蝶恋花には昔師匠とよく行った。あそこの飯は大体旨い。迷い人よ、用件ぐらいなら聞いてやる」
ひとまず話を聞いて貰うことには成功したらしい。
――これで良いのかな?
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