この可愛さはヒロイン補正であろうか?

「シールド生成モジュールまで何もかも使い物にならなくなった……。あぁ、損壊していないパーツの分を考えても……」


 商売をする仙人達で賑わうティエン・シャンの市場を、頭を抱えたシド、のんびりと鼻歌を歌うルイーズ、そして私が歩む。

 住民に警戒されることを想定し帝国軍の徽章はローブを使って隠していたが、それでも現地民には怪しむような目を向けられた。


「シド。人的被害はありませんでしたし、これ以上この問題については考えないようにしましょう?」


 先ほどから独り言ばかり呟くシドをルイーズがなだめようとする。


「誰のせいでこうなったと思っているんだ?」


 対するシドは表情を変えず淡々と悪態をついた。


 ティエン・シャンへ降り立つ前、何者からか攻撃を受けるはめになったが、ルイーズによるアクロバティック危険運転により事なきを得た――乗船していた我々だけは。


 一方、船の方は、シドの独り言から分かる通り目も当てられない状態になってしまった。


 一応修理の手伝いを申し出たのだが、シドからは「君が手を出すとろくな事にならないから辞めろ」と返された。



「そうだぞ、ルイーズ。始末書を用意するのはシドだというのに」


「おい。どうして僕が書くことが前提になっている……」


 こちらの一言にシドが反論しようとする。

 しかし彼の声はある少女の悲鳴によってかき消された。

 

 悲鳴がした方へ向かうと、小柄な少女が三人の屈強な大人に囲まれていた。

 少女は仙人で艶やかな緑色の髪が美しい。幾重にも重なった緑色の薄布が織りなす衣服はフラワーブーケのようだ。


 対し彼女を囲む者達は漆黒の衣装に身を包んでいる。この惑星の警備を任されている帝国兵だろう。


「だから違いますって!」


「嘘をつくな。もし本当にお前が裁定者ラプトールでは無いというならばどうやって物を掴んだり、障害物を避けながら歩いているというんだ」


「だから、それは音の反響で……」


 裁定者ラプトール

 音の反響?


 状況を理解すべく少女を再び観察すると、彼女の目元は全て茶色の布で覆われていた。


 あぁ、そういう事か。


 この瞬間全てを理解する。


 恐らく彼女の名はユウミン。

 飲食店を経営している盲目の少女。


「そこの三人。何があった?」


 こちらが問いかけると、少女を囲む者達は眉を吊り上げた。


「こっちは仕事中だ。邪魔すんじゃねぇ」

「私は審問官E6の使いだが?」


 三人の顔が青ざめる。


「さて、改めて問おう。何があった?」


「この娘が盲目なのにも関わらず、まるでかのように振る舞うものですから、裁定者ラプトールなのでは無いかと……」


「おや、帝国市民には定期的な身体検査が義務付けられているだろう。わざわざ連行しなくとも良かろう」


「うっ……」


 反論する余地を失った帝国兵は顔を見合わせ撤収する。

 安堵したかのように口元を緩めた少女はこちらへ礼をした。


「助けて下さりありがとうございます。あの、失礼ながらどうして助けて下さったのですか?」


「大した理由では無いよ。全ての帝国市民は身分や種族関係無く皆平等に扱われなければならない――先ほど立ち去った者達は君が盲目である事を口実に尋問しようとしていた。これは不当な扱いだ」


 ルナベルの真似をして優しい笑みを浮かべると背後から「キャー、アステル様。かっこいい!」という台詞が聞こえてきた。

 十中八九ルイーズの声だ。


「君の名前を聞いてもいいかな?」


 少女の返答は予想通りだった。


「私はユウミン。『蝶恋花』という居酒屋を経営しています。お礼がしたいのでウチの店まで来ていただけませんか?」


「あぁ、構わない」


 私の返答を聞いたシドが口を挟む。


「待て。そいつの誘いが罠だという可能性は考えないのか?」

「仮に罠だとしても私には関係の無いことだ。全て消し炭にすればいい」


 シドの心配は最もだが、これが杞憂であることを私は知っている。少なくとも彼女は誰かを騙すような人柄では無い。


「では店に案内しますね」


「あぁ、分かった。これは素朴な疑問だが店は一人で経営しているのか?」


「いいえ。幼なじみのサランが今は店を手伝っています。最近は『流転天仙』の調査に忙しいようですが……」


「ほう。奇遇だな我々も『流転天仙』について調査しているんだ」


 この仙人である少女ユウミンはこの世界――私が転生したアニメ世界の主人公サランと最終的に結ばれるヒロインだ。

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