一時停止はしっかり確認しろよ

「私の任務に同行する者は一人だと聞いたが?」


 あれこれ口論している二人を止めるべく、質問を投げかけるとシドからのんびりとした返答が帰ってきた。


「あー、僕は興味があるから付いて来ただけ。だってルイーズと違って僕と審問官様は所属が違うし」


 そりゃあ、シドは研究員なのだから所属が違うのは当然であろう。


「つまりルイーズはルナベル様の配下なのか?」


「そーですよ。私が開発されてすぐに破棄されそうになっていた所をルナベル様が助けて下さったんです」


「私はルイーズが破棄する必要性がある個体には見えないが……」


「それがですねぇ。私は元々民間研究所で開発された医療用自動人形オートマタなのですが、帝国に買われた際に『言動が知的生命体に酷似して居て気持ち悪い』とか何とか言われて破棄されそうになったんですよぉ。酷いと思いませんか?」


 今にも涙を流しそうな表情をしたルイーズがこちらの肩を揺さぶる。

 無論、実際に涙が流れることは無い。


「あぁ、元気一杯なのはルイーズの長所だ」


「それ七歳児に言うやつですよぉ!」





 ワームホールを抜け、大気圏へ突入すると、やがて窓の外にはティエン・シャンの町並みが広がる。

 霧に包まれた山々。高くそびえ立つ石製の建物はどことなく東洋風な雰囲気を漂わせていた。


「わぁー、アステル様。見て下さいよ、あの大きな建物」


 そして運転席に座るルイーズのテンションは、厳かなティエン・シャンの町並みとは対照的に有頂天であった。


「こら、旅行に来た訳では無いぞ」

「はーい。分かっていますよぉ」


 ルイーズが不服そうに口を尖らせると、シドはのびのびと背伸びをした。

 今まで『誰かに指示を出す』という経験が無かった私にとってルイーズとシドという存在が現れたことは大きな変化だ。


 初めこそ慣れなかったが、今では口調を変えたおかげで『それっぽい司令官』を演じることが出来ている。


 口調だけでは無い。ルナベルは私の為に制服を一着貸してくれた。

 ハーフパンツにやけに装飾品が多い制服は完全にルナベルの趣味が反映されたものだと思われる。


 しかし戦闘に支障をきたさないようにする為か、使用されている装飾の布は走り回った際に邪魔にならない箇所にしか使用されておらず、急所には薄型の防護板が仕込まれていた。


 もしやルナベルはここまで見越していたのだろうか?

 正直ここまでくると『計算高い』というレベルでは無い。

 固有魔法が関係している――いや、そもそもルナベルが固有魔法を使っている場面を見たことが無い。


 宇宙船が地表へ近づくと、山々の間から巨大な黄金色の木が見えてきた。銀色の蓮のような花が果実のように成っている。


 あれが『蓮桂樹』であろう。


 木の様子を観察するべく目を凝らした、その時。


 無数のが降り注いで来た。


 無数に飛び交う金色の粉。


 蓮桂樹の胞子か?

 否、それにしては巨大すぎる上に、針のような形状をしている。



――つまりあれは弾丸だ。



「ルイーズ!」

「はい、分かっていますよぉ!」


 ルイーズは潔い返事と共に、弾丸を回避するべく操縦桿ハンドルを握る。


「まずいぞ。アステル。あれは既存の実弾でも光線弾でも無い」


 手元の操作盤で何やら解析していたシドが叫ぶ。


「つまり?」


裁定者ラプトールによる攻撃だ。この船に備わっているシールドで防げるか分からない」


「要するに絶体絶命だという事だな。任せたぞルイーズ」


「はーい!」


 乗車している宇宙船はルイーズの返事と共に険しい山脈地帯へと突入する。山々を覆う霧を利用して姿をくらます算段だろう。


「おい待て、アステル。ルイーズにそんな事を言うな!」


 操作盤から目を離したシドが目を見開く。


「何故だ?」


「昔ルイーズが教習所で爆走した事件知らないのか?」


 それを先に言え!




 

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