『それでも貴方のヒーローでありたい』
均等に並んだ窓から、外を見渡す。
面白いものなど何も無い。
相変わらず宇宙船の外には、真っ暗な宇宙空間が広がっているのだから。
週末、ルナベルの家へ帰るとすぐさまこの軍艦へ連れてこられた。
乗船前、私を圧倒したのは光線弾を防ぐ重厚な装甲、見た者全てに恐怖感を与える大きなボディ。その姿は一般の宇宙船とは一線を画している。
ふむ。本当ならば、今すぐにでも内部を探索したいが、怪しまれ拘束される未来しか見えないので、我慢する。
待っているように言いつけられた部屋で、大人しく座っていると、ルナベルが入ってきた。
風景画が並べられた赤色の壁紙を背にした彼女は、ひたひたと迫り来る死神か何かのように見える。
「お母様、これが噂に聞く空母というやつですか?」
ルナベルがクスクス笑う。
「あら、残念。空母はこれとは比べ物にならないぐらい大きいわよ」
「そーですか……今日は何の用で私をここへ?」
「今日はね、貴方に一つ実績を作って貰うために呼び出したの」
「実績ですか?」
「えぇ、私は貴方を審問官に推薦しようと思っているの。でも、審問官になるには上層部が集まる会議で認められる必要があるのよ」
ルナベルがため息をつきながら、タブレットを取り出す。画面には私の成績表が写し出されていた。
「残念ながら貴方の成績はあまり
「すみません……」
シデンが初等教育を受けさせてくれた為、編入してから勉強面で困ることは殆ど無かったが、物理学や宇宙工学だけはいくら勉強しても理解が出来なかった。
迷路のように張り巡らされた宇宙船内の構造図。跳ねるボールに書かれた謎の矢印。
いずれも私には暗号文にしか見えない。
宇宙工学も同様である。宇宙船の設計図を見ても迷宮の地図にしか見えず、以前シドに解説を求めた際に「野鳥の方がまだ物覚えがいいぞ」と辛辣なコメントを頂いた。
「適当にそれっぽいことを、言っとけば良いのよ」
上層部の人間が、一番言ってはいけないことを、堂々と言ってるよ。この人。
さて、どう返答するべきか。
この会話が盗聴されていた場合、返答次第では私の首と胴体がお別れしなくてはならなくなる――とはいえ計算高いルナベルが明らかなリスクを犯す訳が無いので、何かしら対策をしているのだろうが。
ルナベルはタブレットに寂れたスラム街の写真を表示し、私に見せる。
「この様子を我々帝国は美しいと考えているわ。貴方はどう思う?」
「美しさの基準は人それぞれです」
「まかさの、予想の遥か斜め上を行く回答」
ルナベルは頭を抱えると、ゆっくりと深呼吸した。
「そうね。こういった『生き抜く為のコツ』はまた教えるとして……こうなったら最終手段ね。貴方の因子適応値を活かして、大きな手柄を立てて貰うしかない」
「具体的に何をすれば……?」
「それは帝都で話すわ」
どうやら、この戦艦は帝都へ向かっているらしい。
帝都。それは帝国の中枢とも言える惑星。
言い換えれば首都。
本来首都には名称が付いているものだ。
例えば日本で言うところの東京。
しかし帝都には名前が無い。
理由は単純。帝都は初めから名称を与えられないことを前提に作られた惑星だ。
再び窓へ視線を移すと、銀色の装甲に覆われた巨大な戦艦型スペースコロニーが見えてきた。これが帝都だ。
惑星自体がシールドに覆われている為、帝国が管理している船以外は侵入不可である。
「さて、行くわよ。アステル」
「分かりました、お母様。あの……」
立ち去ろうとするルナベルを呼び止める。
「これから私が話すことで気分を害されましたら申し訳ありません。あの……やっぱりお母様はいい人ですね」
ルナベルはいつも通り優しい笑みを浮かべる。
「あら、私は正義の味方というより
「
「へぇ、そう……」
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