全ては脚本通り
「……バイタル安全……因子の侵食度も低下しています」
「どういたしましょう?」
誰かの声がする。
二人――いや、複数人か。
うっすらと目を開けると見覚えのある顔がこちらを覗き込んでいた。
シドとルイーズ、そして三十人ほどの帝国兵。
皆、真剣な面持ちでこちらを見ている。
何か言おうと口を開くと、首元に何かが当たっている事が分かる。
ハンドガンだ。鉛製の実弾では無く光線弾が出る――いわゆる光線銃。息を飲むと、呼応したようにシドが口を開いた。
「君、名前は?」
「えぇっと、アステルです」
「今まで何をしていたか覚えている?」
「森でレギオンと遭遇して……戦って……それより後は覚えていません」
「どうして片手剣一本でレギオンを倒そうとしたの? バカなのか?」
「一言余計だよ。アイツ町に向かっていたから……私が倒さないと一般市民が犠牲になるかもれないと思って」
「君も一般市民だろう」
「確かに」
シドがため息をついてハンドガンを離すと、今度はルイーズが話しかけてきた。
「アステルさん。現在、因子の呼び声は聞こえますか?」
――因子の声?
そういえば戦闘中、ずっと自分自身の声が聞こえた気がする。
「もう聞こえないよ」
返答を聞いたルイーズが胸を撫で下ろす。
「そう、良かったぁ。アステルさんの身体検査をした際に異常な因子適応値が検出されたので心配でした」
「因子適応値って何?」
「えーと、ですねぇ。因子適応値は字面通り、どのぐらい因子に対応できるかを表した値です。高ければ因子の力を最大限に生かせますし、低ければ、最悪死に至ります」
死に至る……。
もし、私の因子適応値が低ければ、この体は屍になっていたということか。
今だ傷の痛みがうずく上半身を起すと森の奥から誰かの足跡が迫ってきた。
足音の主を視認した帝国兵達は、次々と道を空けてゆく。
「お目覚めみたいね」
「全く。
師匠の因子が私の体に?
そんな筈は無い。
だってこの因子はペンダントの中に入っていたのだから。
いや、待てよ。
もし師匠にペンダントを貸した際に、因子が入れられたとしたら?
「また会ったわね。アステルちゃん」
二人の人物が高圧的な態度でこちらを見下す。
一人はルナベル、もう一人は顔の半分がケロイド状態となった大男。
身長は二メートルを超えていると思われるが、左手が赤黒く染まっていること以外は目立つ点は無い。種族は人間だろう。
「審問官様が何の御用でしょう?」
「あら、何って――因子の回収だけど?」
「因子の回収って……まさか師匠、じゃなくてシデンさんに身体検査を催促していた理由って」
ルナベルが首を横に振る。
「いいえ、彼女が身体検査に来ないことは想定内よ。シデンさんのことだもの。大人しく因子を渡さないことぐらい容易に想像できるわ」
「どういうこと?」
「私はね。
「限界って……因子に侵食され切るということ?」
「えぇ、そうよ。精神が侵食され切った時、持ち主である
「全て帝国の思惑通りってことね」
ルナベルはが不敵な笑みを浮かべる。
「えぇ、ベトが貴方をシデンさん――いえ、紫電の
初めから最後まで全てお見通しということだったのか。
今まで帝国が大きな動きを見せなかったのは私と師匠を思惑通りに『制御』出来ていたから。
「さぁ、貴方に残された。選択肢は二つ。秩序に従わぬ
なんと無意味な質問なのだろう。
どちらにしろ、因子は奪うつもりらしい。
えぇ、でも私はどちらも選ばない。
師匠が渡さなかったものを帝国などに与えるものですか。
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