雷鳴が止まない

 レギオンの周囲から放たれる氷柱を切り裂きながら、その本体へ接近する。



――氷柱の出現パターンはランダム。されど出現頻度は低い。



 落ち着いて対処すれば大丈夫。


 一歩、また一歩踏み出しレギオンとの距離を限りなくゼロまで詰める。


 このまま何度も切り裂けば、レギオンは姿を保てなくなり塵芥と化するだろう。


 そう思い、刃を振るったその時だった。


 片手剣を握った手に強い反作用が襲う。まるでゴムの玉を殴った時のようだ。


 慌ててレギオンから距離を取ろうとすると、地面に当たり砕け散った氷柱から爆風が発生する。


 辺りの落ち葉と共に己の体も宙を舞ったが、受け身をとったおかげで大事には至らなかった。



 どうしよう。全く歯が立たない。



 先ほどの虎とは比べ物にならない強度だ。



 焦りと共に思考が錯乱する。

 このまま退避して我が身を守るべきか?

 いや、このままだと罪無き市民が……。







『壊さなきゃ』




 声がする。私の声だ。

 頭の中へ直接呼びかけてくる。




『全て、全て、破壊しなきゃ。グシャグシャにしてやらなきゃ。人が死ぬよ。沢山死ぬ。貴方のせいで。お前のせいで!』



 あぁ、吐き気がする。目眩がする。

 足に力が入らない。

 それでも何とか立ち上がろうと、剣を地へ突き立て両腕に力を入れる。

 

 その刹那。落ち葉の隙間から銀色のペンダントが顔を覗かせる。


 父が私に残したものだ。

 力が入らない腕でそっと持ち上げると、ペンダントの中心部――宝石が破損していた。

 破損している部分から紫色の石が顔を覗かせていた。恐らくペンダントの中に入っていたのだろう。


 手を伸ばし、ペンダントを拾い上げ、中身を取り出す。


 アメジストのように鮮やかな紫色、光沢を放つその姿は、一見ただの宝石にしか見えない。

 

 しかし、まじまじと観察すればこれが唯の宝石では無いことが分かる。

 宝石の表面が脈打っていた。

 まるで生きているかのように。



『わ、た、し、を、と、り、こ、ん、で』 



 再び脳内にて誘う声。

 これの正体が何であるか私は知っている。


 シデンの回想シーンで現れたキーアイテム。厄災の元凶。そう、これの正体は因子だ。


 どうしてペンダントの中に因子が?


 ふと、そんな疑問を抱いたが、直ぐに消え失せてしまった。


 今、私に残された選択肢は一つしか無い。

 掌に乗る因子を口へ放り込む。


 すると因子が少し波打ち、形状を失った。

 溶けて液体になったなどでは無く、まるで空気に溶け込むように消えたのだ。



 ドクンと心臓が波打つ。



 より強くなった吐き気とは裏腹に頭痛が消え失せてゆく。

 


――どこも痛くない。体が軽い。



 ゆっくりと立ち上がる。


 自身の足元で稲妻のようなものが光を放っている様子が見えた。


 身軽となったその足でレギオンの方へ疾走する。


 そして素早く刀を振るった。

 すると漆黒の刃に青白い光がまとわりつき、柄に塡めこまれた宝石が紫色に変わる。


 刃がレギオンの皮膚に触れる。

 一回目とは違い、いとも容易くレギオンの皮膚は切り裂かれた。

 そのまま何回も、何回も、刃を突き立てる。


 あぁ、今までの無力な自分とは大違いだ。

 今なら何でも出来る気がする。


 そう気分が高揚したその時。

 己の意識は少しずつ闇に飲まれていった。



 



 



 



 

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