特別強化訓練
熱い日差し。「ガァー、ガァー」というやかましい鳥の声。盆栽かと疑いたくなる程、曲がりくねった木々。
シデンが修行の場に選んだのは、一面が山々に覆われた惑星であった。
惑星の名をティエン・シャンと言う。
木々に覆われている風景はサルマハイラとあまり変わらない。しかしいくつか違う点を挙げるとするならば、殆どの山々が霧に覆われていることと――そして明らかに危険そうな猛獣が
「よーし、アステル。キャンプだと思ってテンション上げていこう!」
周囲の状況とは裏腹にシデンは絶好調である。
「あのー、師匠」
「おう。何だ?」
「帰ってもいいですか?」
「駄目に決まってるだろ。さて、まずはこれを手首につけろ」
満面の笑みを浮かべたシデンが渡してきたのは、腕時計型の方位磁石だった。
「この針が示す先に『
「一人でですか?」
「当たり前だろ」
「師匠は私を殺すつもりですか?」
頬を膨らませるこちらに対し、シデンは愉快そうに笑う。
「まさか、私は出来ないことはやらせない主義だよ」
つまりシデンは「アステルなら出来ると思うよ。まぁ、頑張りな」とでも言いたいのだろう。
「やっぱり帰ってもいいですか?」
「駄目」
★
「あの人、本当に私を森へ置き去りにしたよ……今すぐ帰りたいよぉ」
鞘に収った
右手に持つこの剣はシデンが特注した物だ。薄く殺傷能力が低そうな刃には特殊な加工が施されており、大木ぐらいなら余裕で切り倒せる。
更にデザインにもシデンのこだわりが見え隠れしており、美しく磨き上げられた漆黒の刃、
曲線を描いたそのシルエットは日本刀に似ていた。
とはいえ、あくまで片手剣なので日本刀とは違い、片手でも軽々と持てる重量となっている。
師匠たるシデンが立ち去った今、私が置かれている状況は『十四歳の少女が猛獣が跋扈する森を一人で歩いている』という、現代日本では、ありえないレベルのデンジャラス状態だ。
一応、光線銃も持っているが……ほら、殴った方が速いし。
しばらく山道を歩いていると、突如女性の悲鳴が鼓膜をかすめた。
「誰かぁぁ。助けてぇ!」
声の主は猛獣に襲われたのだろうか?
早く助けに――。
「死にたくないよぅ。まだ素敵な王子様に出会えて無いのにぃ!」
なんと緊張感の無い悲鳴であろうか。
声がした方へ向かうと一人の女性が、翼の生えた虎に襲われていた。
素早く抜刀し、虎に接近する。
そして片手剣を猛獣の首元に向かって平行に振るう。
――切る必要は無い。刃だけ当たればいい。
そう。この片手剣ならば虎の体など豆腐のように切り刻める筈である。
ただ腕を振るえばいい。
しかし虎の方もこちらの動きを察知し、飛びかかってきた。
「グゥオオオオオ!」
まずい。狙いが定まらない。
今まで修行に使用してきたものは、あまり動かない的や、手加減をしている師匠などであった。この様な実践は初めてである。
手が震える。呼吸が乱れる。
攻撃動作を止め、虎の猛攻をサイドステップで回避しようとする。
すると虎も何かを察したのであろうか、再び女性の方へ襲いかかった。
「そっちには行かせないよ」
そう。ここで怯えている場合では無い。
私も救わなければ。
今まで師匠がそうしてきたように。
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