わたしはだあれ?

 修行の際に必要な荷物をまとめた私は、そのままシデンが所有する宇宙船へ連行された。どうやら今回の修行は別の惑星で行うらしい。


 じっくりと周囲を見回す。

 無機質に光る操作パネル。窓の外に広がる漆黒の空間。

 四人乗り小型宇宙船の助手席から眺める船内は、どこか不気味である。

 宇宙船に乗ること自体は初めてでは無いが、やはり操縦室コックピットに座っている時の高揚感といったら――。


「あー、そうだ。アステル」


 操縦席に座っているシデンがこちらへ話かける。


「お前が父親から貰ったペンダント少し借りていいか?」


「いいですけど……」


 バッグからペンダントを取り出し、シデンに渡す。

 これが車なら走行中にこんなことをすれば危険極まりないが、この宇宙船には自動操縦オートパイロット機能が備わっているので問題無い。

 

「こうやって宇宙船内を眺めていると、やっぱり科学の力って凄いなと思います」

 

「まぁ、皮肉なことに現在の科学技術は、帝国黎明期に、連合国の残党を刈るべく、作られた対人兵器が礎となっているがな。ほら、これ返すよ」


 シデンがこちらにペンダントを差し出す。

 手元に返ってきたペンダントは一見いつも通りの見た目であったが、よく見てみれば少し違った。

 銀でできたマカロン型の円盤に古代文字らしきものが刻まれている。そして、その中央には宝石が一つ。


 いつもならば宝石は半透明。しかしシデンの手元から返ってきたペンダントの宝石には――何かが写っていた。


「師匠。あの、この写真……」


「あぁ、そのペンダント、中に色々仕掛けがあるみたいだからさ。色々いじってみたら写真が出てきたよ。それ、お前と父親だろ」


「えぇー、このペンダントに仕掛けなんてあったの!」


「そりゃあ、ただのペンダントにしては厚すぎだろ」


 言われてみれば、その通りだ。

 ペンダントの横幅は懐中時計よりも一回り厚い。

 彼女の言う通り、首飾りにしては厚すぎだ。


――私と父?



 目に宝石を近づけ、まじまじと見ると親子写真のようなものが写っている。白髪の男性が父親、そして彼が抱えている幼い女の子が私だろう。

 家族写真だろうか?

 それにしては人数が少ないというか――母親が居ない。

 

「師匠。私のお母さんって他界しているのかな?」


 こちらの質問に対しシデンは首をかしげる。


「さぁ、そもそも私としてはあいつと結婚する物好きな女なんて存在しないと思うけど」


「お母さん、どんな人だったのかな」


「うーん、少なくとも容姿はお前に似ているだろ。だってお前、アイツとあまり似てないし。顔の雰囲気とかは似てるけど」


 本当ならば今すぐにでも父に真相を聞きたいが、残念ながらあの男の行方は天のみぞ知る状態である。

 もう少し写真を観察してみると、更なる違和感に気づく。

 父の首筋に何か刻まれている。

 小さな文字らしきもの。

 自動人形オートマタの首筋にある個体識別番号と似ているが、恐らく別物であろう。何故ならば刻まれている文字は一つしかない。


בベト……」


 ヘブライ文字で二を表す言葉だ。

 こちらの独り言にシデンが反応する。


「何かあったの?」


「宝石に写っているお父さん――首筋に文字が刻まれているんです」


「へぇ、その写真、もう一回見せてくれない?」



 もう一度ペンダントを受け取ったシデンは、写真を観察すると「ふぅーん」と呟き、何度も頷いた。


「この文字、帝国が公式文章に使っているものだよ。なるほどねぇ。昔からアイツ、いつも首を隠せる服ばかり着ていたけど、これを隠す為だったのか」


 首筋の文字。正体不明の母親。


 父は――あの男は一体何を隠していたのだろう?


 

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