多分この人、言い訳が下手だと思う


 ゆっくりとベッドへ寝転び目を閉じる。

 

――もし、どんな願いも叶うならば、どうかこのアニメの世界へ旅立ちたい。どうせなら何にも縛られずに生活したい。


 レギオンの存在は怖いが、何にも縛られずに宇宙を旅できるならばこれ以上望むことは無かった。


 特にシデンと呼ばれる女性と話してみたい。

 シデンはアニメ本編ではあまり出番が無い脇役だが、圧倒的な強さとビジュアルの美しさから根強いファンが多数いる。

 無論、私もその一人だ。このアニメのキャラで誰を推しているのかと問われたならば、迷わずシデンと答える。

 


――アニメの続きは明日見よう。



 やっと推しの回想シーンまでたどり着いたが、もう夜も深い。いい加減寝るべきだ。

 そう意気込むと同時に強い眠気に襲われる。微睡み始めた私の意識は深い、深い、眠りの底へ誘われていった。






 そして目覚めてみれば何故か私の体は病院のベッドでは無く、宇宙船の中だ。

 

 要するに今置かれているこの状況は『病院のベッドでいつも通り眠ったら、何故か宇宙船の中で目覚めた』というこの上なく不可解なものである。


 理解が出来ない。


『シムクルスター。シムクルスター。本日は……をご利用いただき……フランドレア、ティエン・シャン方面へ向かわれる方は七番搭乗口まで……』


 男性に急かされ荷物を片付けていると、搭乗していた宇宙船はシムクルスターと呼ばれる惑星に到着した。



――シムクルスター。どこかで聞き覚えのある名前だ。



 宇宙船から空港と呼ばれる場所へ降りると、空中に浮く液晶やドローンに囲まれた近未来的な空間が広がっている。


 夢でも見ているかのような気分だ。


 男性は私の手を引きながら未知の生命体の間を掻い潜りながら進む。

 時間が無いという話は本当らしい。


「そこの二人。止まれ」


 背後から低い男性の声が一つ。


「はい、何か御用でしょうか?」


 男性がゆっくりと振り返ったので、私も話しかけてきた人物を確認する。


 声をかけてきたのは一人では無かった。五人ほどの漆黒の制服に身を包んだ集団だ。

 彼らの腰には銃らしきものが下がっている。


 警官だろうか?


「随分と急いでいるようだが……何かあったのか?」


 警官の問いかけに男性は笑顔を浮かべながら答える。


「あぁ、私と娘は今、親戚の家に向かっているところでね。実を言うと、船を一便乗り遅れたんだ」


「それで?」


「その親戚というのが、かなり石頭でね。約束の時間に遅れるとブチ切れて、刀で窓を叩き割るんだ」


 なにその親戚。色んな意味で怖い。


「それは止めてしまい申し訳ありません。お忙しいところすみませんが、市民IDをご提示下さい。銀河の秩序維持の為、ご協力下さい」


 男性の表情が強ばる。


 体は小さくなってしまった私でも、何となく状況を察することはできる。

 この男性は私――アステルという少女の父であり、恐らくこの警官達が父の言う『悪い人』だろう。


「お父さん。早く行こぉー!」

「ほら、待ちなさい。すぐに終わるから」


 父の腕を掴み揺さぶる。

 どうにかして、だだをこねる子供を演じてみたのだが、幼少期の記憶があまり無いので、自信は無い。


 対し父は鞄の中へ右手を伸ばした。しかし彼の右手は何も握らず、変わりに左手を警官の方へ向けようとする。


 異変に気づいた警官達が身構えた、その時だった。


「帝国のお巡りさん」


 警官の背後へ、一歩、また一歩、女性が歩み寄ってくる。


 閃光の如き光を放つ白髪。鋭い紫の瞳。そして鎧と振り袖を組み合わせた独創的な服装。その姿、その全てに見覚えがあった。



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