病弱な少女は仮想世界の夢を見る
VRゴーグルを装着する。
すると雨音や、観客の声が聞こえてきた。
これは私が宇宙船で目覚める前、VRゴーグル越しに見たSFアニメの世界。
とある戦士の回想。
「あんな小さな子供奴隷を闘技場に連れ込むなんて、ここの主もついに金欠か?」
銀色の光が覆う闘技場を観客共が見下ろしていた。
背から翼が生えた女性、耳が生えた子供、更にはナメクジのような下半身を持った男性など、観客の姿は多種多様であったが、彼らには一つ共通点がある。
それは舞台に立つ人々を、醜悪なものとして見なしていたことだ。
観客と演者、この舞台では両者には生物学的な違いなど無いはずなのに。
「いや、あの小娘、シグレ族じゃね?」
「シグレって、あの最後まで帝国の援助を断った結果壊滅した種族でしょ?」
舞台に立つ演者の中に、一際目立つ存在が居た。一人の少女である。
紫の瞳、象牙色の肌。彼女の姿は一見人間そのものであったが、白銀の髪から溢れる紫の光がそうでは無いことを示している。
観客があれこれ考えを述べていると、闘技場の中央で浮遊する実況者席に一人の男が現れた。
黒いコート、そして覆面をした白髪の男はマイクを持つとゆっくりと実況者席へ腰を下ろした。
「レディースアンドジェットルマン!」
男がマイクを握ると、観客席が静寂に包まれた。
「血塗られた殺戮ショーへようこそ。今宵も運命を賭けて百人の奴隷が集まりました。これから彼らには自由を賭けて殺し合っていただきます。さて、お待ちかね、今回の賞品はこちら」
数秒後、実況者席が眩い光に包まれる。
よく目を凝らしてみれば、男の右手には紫色の光を放つ宝石らしきものが浮いていた。
「
観客席が、絶叫、雄叫び、喚き声に包まれる。
「手に入れれば惑星一つや二つ簡単に捻り潰せるこの力、一体どの
男がニヤリと笑う。すると闘技場全体の照明が赤色へと変色した。
「さぁ、レッツショータイム!」
悲鳴を上げる観客の声など初めから無かったかのように、殺戮ショーが決行された。
――百人の奴隷が収容されたステージは、鮮血に染まっていく。
――淡い雨の香りが、錆びた鉄の香りに染まっていく。
「因子だって?」
「主催者め。いくら違法なブツを景品にしているショーでも限度というものがあるだろ」
「ねぇ、奴隷達の体を引き裂いていくあの光は何?」
「光じゃない。あの小娘だ」
奴隷達を切り裂く一筋の光。その正体は素早く移動する少女の残像とであった。
彼女の髪が発光している為、残像が稲光に見える。
混乱に陥った闘技場とは対照的に、主催者だけは我が物顔でステージを眺めていた。
「おやおや、今回のショーにはとんでもないブラックホースがいるみたいだ。そうだ、名もない彼女の為に名を与えてやろう」
少女が攻撃の手を止め、男を睨みつける。
「シデン。素敵な名だろ?」
★
視界を覆っているVRゴーグルを外す。
すると先ほどまで視界を覆っていた闘技場の風景は消え、現実世界が目に映る。
――足下を見下ろせば、無機質な医療用ベッドに乗る痩せ細った己の足。
――天井を見上げれば、うなり声を上げる無菌室の天井。
――少し口を開けば、部屋が乾燥しているせいで唇が痛い。
手に持ったVRゴーグルの電源を切る。白を基調とした無機質なデザインのゴーグル。
入院初日に貰ったこのゴーグルにはいくつかの機能が備わっている。
そして現在特に気に入っているのが、この没入型アニメだ。
最先端のVR技術使用されており、まるでアニメの世界に飛び込んだかのような体験ができる。
★
アニメの舞台は人類が宇宙進出し、銀河中の知的生命体と共存する世界。
宇宙船の技術と共に平行世界を観測するため、世界同士を隔てている次元の壁を破壊する技術を開発した。
しかし、完成した次元の裂け目から現れたのは、レギオンと呼ばれる怪物の群れ。
こちらの世界に侵入したレギオンは人間や文明問わずありとあらゆる物を破壊し始めた。
対して、当時銀河を治めていた中央連合国政府はレギオンの心臓から『因子』と呼ばれる物質を生成。
『因子』を取り込んだ人物は『
これで無事レギオンは『
これにより、一部の裁定者はレギオンよりも甚大な被害をもたらす。
この事件により信用を失った中央連合国は実権を失う。代わりに秩序と人類の勝利を目指す為、帝国が確立。
帝国に正式な名称は無い。
何故ならば彼等は唯一無二の支配者になるつもりだからだ。『一つしか無いものに識別する為の名は必要無い』という理論である。
これにより表面上の安全と恐怖によって支配されたディストピアが始まった。
そして主人公サランは皇帝を打倒し、銀河に住まう全ての種族が、平等にレギオンへ立ち向かう国を樹立するべく立ち上がる――壮大なスペースオペラ。
端的に説明すると、時空の裂け目からレギオンとかいう化け物が侵入してくる世界で、サランという少年がディストピアの支配者を討伐する冒険譚。
これがアニメのあらすじである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます