第2.5話 世界の情勢

黒の精霊が絆を得たときに生まれた衝撃は、精霊を知る者たちの世界を震撼させた。

この世界には精霊と絆を得た人間が集まってできた派閥が3つある。


その内の1つ。

精霊による積極的な世界への介入を防ぎ、現状を維持することを目的とした集団。

秩序維持を目的として、表に裏に、精霊を用いた表社会への強烈な介入を防ぐ抑止力。そして実行力を持つ集団の動きは速かった。


「冗談だろ。黒が現界するなんて聞いてないぜ?」

「可能性はありました。もともと、その余地を残している世界です。

予兆は……黒よりも違うモノが絆を結び得る方でしたが。」


暗がりの中、大豪邸と言っていい広さを持つ屋内。

リビングに鎮座しているキングサイズベッドよりも巨大で柔らかく、男の――非常に筋肉質で。ともすれば獰猛な肉食獣ですら襲撃をちゅうちょするような鋭い鷹の目を持つ男が顎を指で触れ、目の前にある情報端末と手元の端末を交互に見比べていた。

金髪にわずかだが白髪が混じり、東洋人ではなく西洋の出自を思わせる肌。

秩序を重んじ、現在の世界情勢を極力動かしたくない側にとっては余りにも迷惑なハプニング。


目の前のディスプレイに映し出された細身の女性より、黒い全身タイツに身を包む精霊のほうに視線を奪われている男は苦虫を噛み潰したように。

そして隣に静かに佇むのは亜麻色の髪の毛を編み込み、その編み込んだ髪の房を方から前に垂らす女性の組み合わせ。


手元の情報端末を用いて2人の仲間へと通信を――。


「あぁ、俺だ。日本に至急飛んでくれ。

情報封鎖やっかいごとはこっちの仕事と思って割り切ってくれていい。」


「私です。日本へ軍用機を。乗せて構いません。

理由は長年の友好を祝して、とでも。2人乗せてください。

宝利ほおり裁定者みさだめるものを収容次第GO。」


男は2人の仲間へ。そして女性は手早く大国――それも超大国の首脳に指示を出していた。

秩序を重んじる彼らの陣営は、維持派モールト、と呼ばれていた。

秩序を。世界を。今のギリギリで安定が取れている状況を維持することを目的とした集団。

自由に能力を使う連中や、私利私欲に走りたい組からすれば最も目障りで、最も度し難い存在。

けれど彼らがなぜ存在し続けられるか。――それは実力も。カネも。そしてコネもあるからだという事を知らない者はいない。

超大国の首脳であろうと、彼らにとっては手駒にしか過ぎない。

その二人が自然と険しく、緊張感を帯び。空気がそれを表すようにパリ、パチ、と弾けては帯電する。


「――最悪の組み合わせじゃねぇ事を祈るだけだな。

しかし、よりにもよってこのタイミングか。」


深いため息。そして手駒を動かすだけではなく、自分たちも動く必要がある。

それを察知して女の方も情報端末を落とし。それが床に落ちるのではなく、すぅ、と消えていくのを見届けてから2人とも部屋を後にする。

残された部屋は闇と静寂に包まれていくのだった。

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