第3話 子供と大人
「お前、可愛いからって間違ってもそういうことすんなって。男なら誰しもガキを抱いて優越感を生むとは限らないんだぜ」
「ふーん。カワイイねえ」
私、
相手はあの恋い焦がれていた吉田さんなんだ。
今は私に好意を抱いてなくても、当たって砕けろとはまさにこのこと。
だったらこれも武器にしないと損だ。
「私ね、胸も結構あるほうだと思うんだけどなー。これに挟まれたいと思わない?」
「うぐ……」
カーディガンを脱いで、白いブラウスになった私の姿に顔を赤らめて黙り込む吉田さん。
ついでに少し動いて揺らしてみると無言で反応して。
やっぱり胸は女のステータスだよね。
「まあ女子高生にしてはな。だが後藤さんはもっとデカイぞ。にまあー」
「うん。Iカップだよね。私はFカップだけど」
「えっ、そうなのか。何で後藤さんのサイズを!?」
あっ、いけない。
この話は少し後出しの流れだった。
後藤さんのサイズと聞いて、とっさに吉田さんが口にしたサイズが頭に浮かんで。
焼肉の匂いがプンプンした吉田さんはとても満足げだったなあ。
「アハハ。寝言でちょっとね」
「ガチで笑えねーな。俺、今日から口にガムテープ貼って寝るわ」
「色々とこわいから、それは止めてよね」
寝言でIカップの夢って何なんだろうと含み笑いをする。
でも吉田さんには何とか誤魔化せたみたい。
「でもさ、目の前にある触れるFカップがあるんだよ。触って損はないと思うけどな」
「お前、そんなにヤりたい盛りなのか? ヤるなら好きな男との方が……」
「ううん。好きな人はいるよ。でもね……」
「なら余計におかしいじゃないか。嫌なことでもあったのか。俺で良ければ相談くらい……」
誰よりも大好きな吉田さんは悲しいことに頑固でむっつりで、私の体に触れようともしない。
初めて会った時もそうだった。
だったらこちらから攻めるしかない。
「……じゃあ、私から訊くけどさあ」
私は吉田さんの意見もお構い無しに、その太い首に自身の細い腕を絡める。
「ヤッてもいいと女の子が言ってるのに何もしない方がおかしいでしょ? タダで目の前の女が抱けるんだよ?」
「はあ……お前何を?」
吐息が顔にかかる、目と鼻の先で会話しても無反応か。
一体、以前の私はどうやってこの男を好きにさせたのだろう。
私は吉田さんから体を離し、テーブルの傍にあるベッドに座りこむ。
「じゃあさ、少女趣味でも胸フェチでもないとか?」
「だからそうじゃなくてだな……」
吉田さんが困ったような表情で答えを出してくるので、何だかこっちが虚しくなってくる。
「今までこんなことをしないとタダで泊めてくれる人なんていなかった。吉田さんが初めてだったんだよ。だからこの世界では思いっきり私のことを穢してよ」
「ん? どういうことだ。今までということは、お前いつから家出をして?」
「あっ……」
吉田さんから逆に言いくるめられ、行き場のない感情を胸に秘めたまま、次の言葉が出てこない。
「どこから来たんだよ?」
「おい、黙ってても分からねえだろ……」
「……分かんないの」
スカートを握りしめたまま、震える声で本心をポロリと口に出す。
「どこかの廃ビルの屋上にいて気が付いた時はこの世界に戻ってきて……」
「はっ、何のことだ?」
吉田さんが頭を悩ませながらも、私のことを気遣っていることは分かる。
この人は本当に優しい人だ。
こんな私が相手でも下心なく接して、心から心配してくれる。
「そのビルにいたのはいつ頃なんだ?」
「記憶にしたら毎日雨が降ってた季節かな」
「もしや梅雨か。とすると今から半年くらい前か……」
吉田さんが梅雨と言った瞬間、脳裏に親や友達の面影が飛び込んでくる。
「お前が消息したことを親御さんたちは心配してるぞ。だから……」
「平気だよ。私なんかいなくなっても、みんな普通に暮らしてるから」
「大丈夫だから」
私は毅然とした態度のまま、真剣なまなざしの吉田さんから目を離さなかった。
夕刊を配達するバイクの音がやけに大きく聞こえても……。
****
──俺はこの女の子をただの家出少女と甘く見ていたかも知らない。
蓋を開けてみたら、相手はとんでもないペテン師だったからだ。
「ふざけんなよ。大丈夫だったらそんな顔するかよ……第一、俺の家に泊まれなくなったらどうするつもりだ」
「駄目なら別の男の人の家に泊まるしかないなあ……お金がないから、いつものように上手いようにやって……」
「それって見ず知らずの男と……というわけだよな」
「えっと……」
女の子が胸を握り締め、凄く嫌そうな顔をする。
「口にも出せないことをして住んで何が楽しいんだ」
俺は女の子の座るベッドを掴み、少しでも痛みが和らぐような知恵を絞る。
コイツは今まで最悪なやり方で何も知らない男たちと共に過ごしてきたのだろう。
そいつらがどう感じたか知らないが、この子が性欲のはけ口されてたことは間違いないんだ。
ふざけてんのか。
コイツはどこにでもいる普通の女子高生だぞ。
普通に学校に通って青春を謳歌して、
普通に生徒に恋をして、
普通に日常を過ごし、馬鹿みたいに毎日楽しく笑うのがガキの役目だろうが。
「……俺はお前が色っぽい体をしてても、何の興味も沸かねえ」
「お前の何かなんてくだらねえ」
俺は自分の思ってる正直なことを述べる。
女の子は小さい肩を震わせながら意を決して俺に笑いかけた。
「……だよね。家出した私のワガママだし、じゃあ、出てい……」
「だからこれからも俺んちにいていい」
「……えっ?」
女の子がきょとんとして俺の方を見てくる。
女の子の話を聞いてるうちに、すでに俺の気持ちは決まっていたのだった……。
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