第10話
「やっぱしょっぱなは都の中心部だな。情報収集だ。あらゆる情報は基本、そこに集約されると思ってくれていい」
コツコツと、石畳の道をキースさんと並んで歩く。一応、道は整備こそされているものの、あまり特徴的な店はない。どこに目を向けても、渋い色合いの店ばかりだ。
「キースさん、ノドの都って・・・特産品みたいなものはなんです?」
どんなに街が、栄えているあるいは衰退していようとも、何かしらはあるはず。
再訪だというキースさんならば、そのあたりは熟知していても不思議じゃない。
もっとも、私も私で、今更になって聞くのも遅すぎた感はある。
「特産品――名物ってやつか。ここにゃあ、スピンが期待するもんなんざ、ありゃしないぜ。とっくの昔に文化は寂れちまったらしい」
「文化が、寂れた?キースさんはいつその話を聞いたんですか」
「3、4年は前だな」
「ということは、以前はもっと賑わいや活気があったのでしょうか?」
「さぁな。俺も人づてに聞いた話だしよ。だが現状はコレだ。嫌でもその事実を鵜呑みにしちまう」
「そうですか・・・」
落胆の色を隠せない私を慮ってか、キースさんは「そんな顔すんな」と言って、さらに続ける。
「人が流す噂なんて、つまるところ、どこまでいっても噂に過ぎん。その程度さ。だからな。己の目ではっきり確かめろってことだ」
まぁそれもそうか。単純な答えではあるけど、キースさんに言われるとなぜか妙に納得がいく。
いちいち後ろばかりを気にしていたら、キリがない。私もキースさんを見習って、状況に応じてメリハリをつけていこう。
「進みましょう。キースさん」
「その意気だ。ちなみにもうまもなく中心部に着くぜ」
むわっとした生ぬるい風が頬を撫でる。上を見上げてみると、一雨やってきそうな分厚い雲が、空を覆い尽くしていた。
どうりで、さっきから蒸し暑いわけだ。肌もベタベタしてうっとうしい。
「スピン、着いたぞ」
「ここが・・・」
中心部というだけあって、一応それなりに人の往来はある。しかし実際は人の数だけが増えたという感じで、真新しそうな、あるいは異彩を放っているかのような建造物は相変わらずなさそうだ。
「俺は今から集会所に行って、手当たり次第情報を集める。スピンはどうする?一緒に来るか?」
「いえ・・・私はもう少しこの近辺を見て回ろうかと思います。ちょっと確認したいものもありますので」
キースさんの心遣いは嬉しかったが、この場は断ることにした。それにいつまでも彼の世話になってばかりではいけないという思いもあった。
初めて人の営みがある土地に訪れた以上、自分ひとりでもちゃんと行動できる力だってつけていく必要がある。
「分かった。ただし、くれぐれも気をつけろ。ノドに初めて来てるっつう事実を忘れんじゃねぇぞ。中にはいかがわしいもん押し付けてくる妙なやつもいるんだからな」
はい、ありがとうございます――そう返事をして私はキースさんと別れた。
とりあえず商店だ。商店を探してどんな品を扱っているかが知りたい。食べ物系だと、肉や魚、野菜のほか、果物といったあたり。それ以外にも生活必需品、日用品など。
あとは最大の目的――アレを見つけたい。ずっとずっと気になっていた、アレの姿を私はここに飛ばされてから一度たりとも目にしていない。
不安と期待が変に入り交じった、言葉では表現しにくい感覚を胸に、私は石畳を蹴った。
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