第9話
「あの・・・キースさん。純金貨の価値って――?」
私が顔色をうかがいながら尋ねると、キースさんはこれまでに見せたことのない、ひどく驚いた表情をしていた。その証拠に、目も大きく見開かれている。
が、呆気にとられたキースさんからの返事はない。そもそも私の声が届いてすらいないのかも。
「キースさん!」
だから私はもう一度、呼んだ。今度はボリュームを上げて。
「あ、あぁ。すまんすまん」
「純金貨なんですけど」
キースさんは私の肩にポンと手を置き、意を決したかのように言った。
「聞いて、驚くな・・・純金貨3枚っつったら、城や王宮クラスの建物が余裕で建てられる――それくらいの額だ」
「――え」
城?王宮クラス?
突然出てきた言葉に、私も事態が呑み込めずにいる。
とんでもなく、高価だったってこと?
あの服一着が?
たしかに王室でのみ着ていたもので、令嬢としてふさわしく魅せる必要があったからある程度上質なつくりで施されているのは把握していたけど、いかんせんその鑑定は疑わざるを得ない。
「冗談、ですよね?」
「馬鹿野郎。冗談なわけあるか。テンの目は確かだ。スピン、分かるか・・・。俺は今、ものすごいものに出くわした気分だぜ。ろくに言葉も見つかりゃしねぇ。頭ん中すっからかんだ」
それは私とて似たようなものだ。感覚としては、一般庶民が一攫千金を掘り当てたといったところだろうか。
戸惑いはあったが、同時に、これはチャンスが巡ってきたのかもしれないとも思った。
富があれば、人を動かせる。
なんなら、新たに国を作ることだって――。
「テンさん」
「おぅ」
「よろしく、お願いします。提示してもらった通り――純金貨、3枚で」
「分かった。んじゃ、晴れて取り引き成立、だ」
テンさんは今度こそ握手をすべく、右手を差し出す。私も同様に彼の手を握りかえす。見た目から想像していたように、とても大きく逞しい手だった。
あいにく純金貨ともなると、いくら俺でも手元に持ち合わせてないんだ。悪いが支払いはちと待ってくれ――。
と、言い残してテンさんはそそくさと私たちの前から去っていった。早速、純金貨のために動いてくれているのだろう。さすがだ。行動が早い。
「たまげたなぁ。で?スピンよ、こっからどうすんだ?正直何でもできるぞ。一生遊んで暮らせるくらいの額だからな」
「とはいえ・・・正直まだ実感がなくて」
「だろうよ。それが普通だ」
「とりあえず、せっかくノドに来たことですし・・・一通り、都の様子を見ておきたいと思うのです。キースさん、続けて案内は可能ですか?」
「いけるぜ。俺だって見たいところはあるからな。スピンにばっか、いい顔させねぇぞ。こっちも稼がせてもらわんと」
頭にポンと手を置きながら、キースさんは笑顔で私を見下ろす。
頭を撫でてもらったのなんて、いったいいつ以来だろう。記憶をたどってもはっきりした時期は浮かばなかったが、悪い気はしない。
拾ってくれた人が面倒見のいい人で本当によかった。
「行くか」
「はいっ」
「おっ、いい顔で笑うようになったじゃねぇか」
あと、キースさんはプライドは高いけど、褒め上手でもあった。
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