第8話
「で?今日はいったいなんの用があって来たってんだ?冷やかしならごめんだぜ。こっちだって常に暇してるわけじゃないんだ」
「まぁまぁ、そう先を急ぐなや。冷やかしでもなんでもねぇ。今日はれっきとした取り引きの話を持ってきた」
「ほう。今回はどんなガラクタを持ってきたと?一応、モノだけは見てやる。その前に――隣にいるその子はどこの誰だ?まさか拾ってきたのか?」
不躾な質問であっても、キースさんは特に気にする素振りも見せず、口角をニッと上げてから言った。
「御名答。今回の取り引きの主役はこの子、スピンだ。旅の途中で偶然会ってな。そこで意気投合した」
「スピン、と申します。よろしくお願いします」
挨拶をし、握手もしておくべきかと右手を差し出す。
が、向こうはそのつもりはないらしく、私の顔をじっと見つめたのち、口を開く。
「テンだ。そこにいるキースとは腐れ縁みたいなもんよ。それから、スピンだったか。握手はまだだぜ。取り引きが成立してからだ」
「あ・・・すいません・・・」
私はゆるゆると右手を下ろす。無知だと言われたみたいで、正直あまりいい気はしない。
しかしそこはすかさずキースさんがフォローしてくれた。
「テン・・・無茶言うな。スピンはまだこの都の風習なんざ知ったこっちゃねえ。そのへんにしといてやってくれ。記憶だって失ってたんだぞ」
「記憶。そりゃあ・・・悪かったな。大人げないこと口にしちまった」
「あ、いえ」
威勢のいい態度から急に謝罪の態度になり、繰り出されるギャップから私は少々戸惑ってしまった。
「俺のことは普通にテンと呼んでくれていい。自己紹介も済んだんだ。ぼちぼち始めようじゃねぇか」
「——これです」
ここは私自らが、前に出る。
「服、か」
テンさんの真剣な表情は変わらない。モノには実際に触れず、まずは目で判断しているようだった。
「ここらじゃ見かけねぇもんだな。少なくとも俺はこいつを初めて見る。素材は何でできてる・・・?見ただけじゃ分からん。ちょっくら触っても確かめてもいいか」
「はい、大丈夫です」
骨ばった手で服を掴み、両手でそれを広げてみせる。装飾品である色とりどりの鉱物が、頼りなげな電球の光をキラキラと反射させていた。
私が今着ているのはキースさんの譲渡品であって、旅をする以上極力目立たないようにと、灰色に施されている。
心配な面持ちで物色するテンさんを眺めていたら、横からキースさんがそっと私に耳打ちをする。
「おい、スピン。こいつは・・・手応えあり間違いなしだぞ」
「えっ、どうして分かるんですか?」
「あいつが自分の手で触るということは、値打ちのある証拠だからだ。逆に見込みなしだったら、絶対に触れない」
「しかし――楽観視はできません。確定したわけではないのですから」
そんな私たちの会話をよそに、テンさんは黙って服を鑑定している。
表、裏。隅々にまで目を光らせ、時々「ふーむ」と、ため息混じりの唸り声を上げては悩んでいる。
その間、私はただ無言で待っていたのだけれども、心はそわそわと常にせわしない状態だった。
「おしっ。決めた」
テンさんが膝をパンと叩いてから、ようやく口を開いた。時間にして、およそ20分ほどかかったか。
「ど、どう、でした、か・・・?」
私は一文字ずつ噛みしめるようにして、下された結果を問う。
「純金貨、5枚ってとこだ」
右手で数字の5を作りながら、テンさんは言った。
純金貨5枚?――って、いったいどれくらいの価値なの?
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