第7話


「スピン、見ろ。あそこだ。分かるか」


 キースさんは前方を指差しながら言った。その指が指し示す先には、確かに集落らしきものが見える。

 もっとも、まだ多少距離があるらしく、具体的な姿までは確認できないが。


「――あれが・・・」


「あぁ。『ノド』の都だ」


 胸が高鳴る思いがした。

 ようやく、か・・・。長かったな。

 ダラダラと続いた殺風景な道のりとも、これでおさらばだ。

 到着したわけでもないのに、私はというと既に感極まっていたのだった。命からがら助かった先の風景。喜びは自ずと感じる。


「やっと着いたんですね・・・」


「おいおい。安心するにしちゃ、まだちっと早ぇぞ。きちんと取り引きが終わってからにしてくれ」


「そうでした。そうですよね。でも、少なくともキースさんが私をあの場で助けてくれなかったらと思うと、やっぱり嬉しくって」


「ま、次からはちゃんと準備してから発つことだな。ほら、しゃべってないでさっさと行くぞ」


 頭をガシガシとかきながら、キースさんは言った。目線は合わせず、前だけを一点に見据えていたが、私にはそれが照れ隠しのように見えてならなかった。




「お待ちかねの到着だぜ」


「えと、繰り返しになってしまいますけど・・・ここが『ノド』で合ってますよね・・・?」


 私は質問せずにはいられなかった。


「どうした?そんなに意気消沈しちまってよぉ。不満でもあんのか?」


「いえ、その・・・」


「言いたいことあんだったら、言っときな。別に今更、怒ったりなんざしねぇからよ」


「なんていうか――想像していたよりも、街の発展ぶりが見られないな、と思いまして」


「と、いうと?」


「『都』の名を一応、冠していましたので・・・」


 見渡す限り、がまるで感じられない。それどころか、スラム街っぽい雰囲気が漂っていて、むしろそっちの方がしっくりくるほどだ。


 住人だろうか――の歩く姿も見受けられる。しかし服装などに注文してみると、私からしたら、どうにも

 有効な取り引きや商売が、はたしてこの地で可能なのかと、心配になってきた。


「スピン、心配するこたぁねぇさ。確かに見た目こそこんな感じだが、話してみりゃ皆いいやつばっかだ」


 三度、がっはっはと笑いながらキースさんはずんずん先を急いでいったのだった。私も慌ててついていく。


 目的の取り引き場もまた同様、建物自体は古びた一戸建て風で、所々朽ち果てている箇所もあった。疑問はますます私の中で深まっていく。


「テン?いるか?入るぞ」


 建て付けの悪そうな扉をぐっと開け、キースさんは中へ入る。


「キースさん。テンさんという方は・・・?」


「テンか。テンはだな――」


「なんだ。ばかにデカい声で呼んでくるなと思ったら、やっぱりキースか。相変わらずのダミ声だな。なんとかならんのか」


 皮肉たっぷりに、奥からのっそりと姿を表したテンと呼ばれた男は、長身でスラッとした体躯をしていた。が、キースさんと同じく商売人なのか、垣間見える筋肉からは屈強そうな印象が伺える。


「お前こそ、相変わらずの口の悪さだな」


 売り言葉に買い言葉のようなやり取りだが、ふたりには笑みが浮かんでいる。

 どうやら彼らにとって、これが挨拶代わりみたいなものなのだろう。

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