第6話


「だがもし、どうしようもねぇガラクタだった暁には――分かるな?」


「――大丈夫です。その可能性は捨てて構いません」


 今更、後戻りはできっこないのだ。根拠などなかったが、ズバリ私は言い切った。弱気でいては、巡り巡ってくるチャンスなど到底モノにできない。時と場合によっては、今みたいな強気な嘘も求められる。


「それを聞いて安心したぜ。信頼なしの商売なんざごめんだからな・・・んじゃ、晴れて交渉成立、だな。あいよ、スピン。案内役、仰せつかった」


 私はキースさんと固い握手を交わした。


「早速、と言いたいところだが、まだ疲れてるだろう。今日はもう遅い。ひとまず明日に備えてじっくり体を休めておけ。暗くなるのもあっという間なんだ。危険も伴う」


「分かりました。それで・・・まずはどこへ向かうのでしょう?場所だけ教えてくれませんか」


「聞こえなかったのか。体を休めろと言っただろ。一度倒れた身で何ができるってんだ」


 と、キースさんは頑なに話そうとしない。しかし、私を気遣っての発言だとは理解できた。素直にここは従っておこう。

 体を横にしたら、張り詰めていた緊張感が一気に緩んだのか、眠りはすぐに訪れたのだった。




 陽の光によって目覚めた私は、上体をゆっくりと起こした。きっとキースさんの施す治療は最適なものだったのだろう。おかげで昨晩まであった節々の痛みは、ほとんど消えていた。

 商売人の知恵、侮るなかれ、だ。


「おぅ、スピン。ちょうど今、起こそうと思ってたところだ。どうだ?具合は?いけるか?」


「体は大丈夫です。回復しました。いけます」


「よっしゃ。そうと決まれば支度すっぞ。俺は先に外で待ってっからよ。終わったら出てきてくれ」


 ニッと笑ったキースさんは、よっこらせと言いながら腰を上げる。脇に置かれていたリュックを背負い込み、早くも準備万端の姿勢になった。

 私も遅れをとらないように、急ピッチで身支度やらを整える。


「すいません、お待たせしました」


「お。来たか。そいじゃ、片付けが終わり次第、出発とすっか。悪いが少しばかり待ってくれ」


 一晩を過ごした簡易テントの方を振り返り、慣れた手つきでテキパキとたたんでいく。

 そういえば一歩たりとも外に出ていなかったから、テントの中にいたという実感も沸かなかった。

 普通に分かりそうなものなのに。恥ずかしい限りだ。


「すごい・・・」


 私は思わず、声をもらしていた。余分な工程がひとつもない。やや大げさかもしれないが、魔法でも見ている気分だった。


「あん?なんだって?」


「あ・・・その・・・とっても、手際がいいなと思って」


「そらそうよ。こういうところで、いかに時間を短縮できるかも、重要なんだぜ」


「肝に命じておきます」


「さて。いよいよだな」


「はいっ!お願いします!」


「いい返事だ。かといって張り切りすぎるなよ。目的地までは、まだ先は長い。俺たちはこれから、西の都――『ノド』に向かう」


「ノド、ですか?」


「おうよ。そうだな・・・途中休憩を挟んだとしても、3日あれば着くだろ」


 ノドの都。

 聞いたことのない名前だ。都という名が付くからには、発展しているのだろうか。


 想像は膨らむ。私はキースさんの背中を目で追いながら、期待を込め、歩みを進めていった。

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