第3話


「う・・・あれ?ここは・・・?」


 私はゆっくりと上体を起こした。

 いったいなにがどうなってる?たしか——側近が部屋に招き入れた、ひとりのやせ細った男にいきなりナイフで刺されてそこから・・・。

 

 つまり、単純に私は見ず知らずの村人に殺されたということだ。

 暗殺。

 全く縁のない出来事と思っていただけに、それがまさか自分の身に降りかかってこようとする日が来るとは・・・。


っつ・・・!」


 ひどい頭痛が頭を刺激した。何かで強く殴打されたみたいに痛む。

 一方で、刺されたはずの脇腹はまったくもって無事だった。それどころか、体全体に目立った傷も見受けられない。


 私――死んだんだ、よね?


 確信できずにいるのは、体が何不自由なく動いているからだ。矛盾している。身につけている服装だって、よく見たら王室にいた時のまま変わっていない。

 

 改めて周りに目を向けてみた。まずは今どんな状況に置かれているのかを整理しないと。


「――こ、ここって・・・」


 思わず、私はひとりごちる。


 ――何ひとつない、とはまさにこのことだろう。

 だだっ広い、荒れ果てた土地がそこにはあるだけだったのだから。建物らしい建物も見当たらない。

 しばらくの間途方に暮れる。いったい私はこの先どうなってしまうのかとの不安な気持ちにも襲われた。誰か人の姿でもあれば多少違うのだが、人が通る気配などまるで皆無。


 そもそもここは地獄であって『ただひたすら永遠に続く道を歩かせる』なんて名前の、私に対する罰なのではないかと疑った。だとしたら、庶民に関心を向けなかった私が全ての原因だ。


 本に親しみを持ってもらいたかっただけだったのに・・・っ!


 でも――あれ?


 ――お嬢様はお忘れですか?条例を破った場合に罰則を課したことを。


 側近の言った言葉がフラッシュバックする。あれには引っかかりを覚えた。条例を出したのは事実だが、罰則は出してない。絶対。誓って言える。

 ともなれば、条例が発令された時点でが、水面下で進められていたとか?


 可能性としてはゼロではないだろう。


 だったら。


 不安はいつしか消えており、それどころか、逆に心の内側からふつふつと湧き上がってくるものがあった。


 暴いてやる。

 私をこんな目にあわせたやつを。


 側近と私を刺した張本人に加え、影の黒幕がいるのだ。よって、そいつが真犯人。

 どこまででも追いかけてやる。たとえここが異世界であろうとなかろうと。きっとどこかに、繋がる手がかりはあるはず。


 そうと決めたら、自然と足が動いた。今は前進あるのみ、だ。じっとしていたって、状況は一向に改善しない。

 反骨心も原動力のひとつになった。このまま黙ってすごすごと引き下がってたまるか。


 しっかし、蒸し暑いな・・・。


 湿度が異常に高い気がする。太陽光がもたらすカンカン照りの暑さとはまた違い、どちらかというと時間をかけてじわじわ体力が削られていく感覚だ。

 足場も不整地なうえに、履いている靴がヒールなものだから、普通に歩くだけでも困難を伴う。一歩地面を踏みしめるたびに、足裏が疲労していくのが分かった。


 雑念を振り払いつつも私は歩いた。しかし目標物がないと、げんなりしてしまう。だから私は嘘偽りであっても、士気の低下だけは防がなければと思い、勝手に自分の中で、した。


 集落!村!を、見つけよう!

 この道(?)はそれらに続いているのだから!

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