第12話『昇格試験』

前回お仕事を頑張った傑。


仕事をこなすことでCランク昇格試験に挑む権利を獲得することに成功した。


果たして傑は無事に試験を突破し、昇格できるのだろうか?


傑達の活躍をご照覧あれ!


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傑「ヘイヘイヘーイ!オラっ!目覚めの時だぞこのやろう!」


シズク「……ん〜……もぉ、なにぃ?朝からうるさいんだけどぉ……」


イフ『いきなり大声出されたら耳がキンキンするんだけど?寝起きで叫ぶとか傍から見たらやばい奴だよ』


傑「いやぁ……待ちに待った昇格の日だぞ?テンション上がらないわけねぇんだよな。逆にお前らがそういう事態に興味無さすぎるんじゃないか?」


シズク「めでたいことなのかもしれないけど、今は眠いから寝たいんだよ。君と違って僕は朝に弱いからさすがにそのテンションについて行くのは無理がある。」


イフ『ってかそもそも昇格が確定で出来るとは限らないからね?昨日も確認したけど試験があってそれに合格しないとダメだからね?』


試験とは冒険者がランクを1つあげる際に発生する実技テストのようなもの。

試験に合格できなければ再び試験が発生するまでそのランクで停滞することになってしまう。


傑「俺が不合格になると思ってんすか〜?やだなぁもう!俺は陽キャで筋肉モリモリマッチョマンの変態だぞ!失敗する要素がない。」


シズク「いや傑は陰キャでコミュ障のガリガリスケルトンじゃん。失敗する要素しかないでしょ。」


なんだコイツ。俺のメンタルをゴリゴリ削ってきやがって……ホントに俺の仲間か?やはり魔物は魔物なんですね。


イフ『そういえばいつから試験が始まるんだっけ?あんまり話聞いてなかったから覚えてないんだけど。』


傑「確か朝の9時とかだったような気がする。幸いこの宿には時計がある。遅刻することは無いはずや!」


そんな感じでイフとシズクと雑談しながら時間を潰していった。ただ俺は現代日本にいた男だからゲームとかに触れられないので内心めちゃくちゃ暇に思っていた。


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傑「んん〜!そろそろ時間か〜。ふぅ……じゃあギルドに向かいますかね。ほらっ、シズク乗れよ」


シズク「はーい。」


シズクを頭の上に乗せ、ギルドの方へと足を進める。俺は貧乏ゆえにバックを持ってないので頭に乗せるのが一番楽。


イフ『前から思ってたけど見た目シュールだね。スライムを頭に乗っけて街中歩いてる男なんて私見た事ないよ。』


傑「まぁ、周りの人達がこっちを見ているんじゃないかって恐怖はあるけどこれが楽なんだからいたし方なし。」


陰キャくんだから周りの目線が気になるんじゃ。もうねぇ異世界行っても人ってのは怖いよぉ。魔物も怖いけど人の方が怖ぇ。つまり人型の魔物はもっと怖い?……ハッ!


シズク「なんか変なこと考えてない?くだらないことに気がついた時の顔してるよ?」


傑「よく分かったな。俺は衝撃の事実に気がついたんだ。ただ他人に言うほどいうほど重要な事実かというと全くもってそんなことは無い。つまりどうでもいいことってわけ。」


イフ『あ〜そろそろギルド着くよー。傑は頭悪い事言ってないで気合い入れてねー。君はバカなんだから不合格になる可能性は大いにあるんだからねー。』


傑「へいへい分かってますよ。こう見えてめっちゃ緊張してるから手汗凄いんだよね。」


さっきから緊張で胃が痛くなってんだよなぁ。俺の豆腐メンタルを大事な場面でも揺らぐことの無い鋼メンタルに加工出来たらなぁ……


シズク「あっ、着いたよー。」


雑談を続けながら歩いているいつの間にかギルドの目の前まで来ていたようだ。そのまま俺たちはギルドの中へと入っていった。


傑「えーっと受付にとりあえず行けばいいのかな?…………す、すいませーん。あ、あのCランクに昇格するための試験受けたいんですけど……あー、どこ行けばいいんでしょうか?」


俺は持ち前のコミニュケーションの能力を活かして受付の職員に質問をしてみる。


職員「試験ですね。確かもう少しで回の試験を担当してくださる方がいらっしゃるはずなので少々お待ちを。」


傑「ぁっ、は、はぃ。分かりました……あ、ありがとうございました。お仕事頑張ってください。失礼します……」


そういうと俺はそそくさとその場を離れ、近くの席に腰をかけた。


傑「……はぁぁ。やっぱり人と話すの苦手だわぁ。めっちゃどもったぁ……あーぁ、1人反省会が始まっちゃうよぉ。」


シズク「大丈夫だって、あの職員の人も別そこまで気にしてないって。なんかコイツめっちゃ緊張してんな〜ってくらいにしか思ってないって」


そう思われるのが嫌なんだよ!うわぁあああ!クソッ……夜寝る時今のやつがフラッシュバックしちゃうでしょうが!


?「おーい、項垂れてボソボソ独り言呟いてるそこの君ー?君がスグルくんで合ってるかな?」


俺が1人反省会していると目の前から黒髪小柄のイケメンが俺に話しかけてきた。


傑「えっ、あ、そうですっ!ぇ、えっと、あなたは?」


クーリ「あっ、自己紹介忘れてたね。俺の名前は【クーリ】。君の試験を担当するAランク冒険者のそこそこすごい人だ。よろしく」


傑「よ、よろしくお願いします。」


わぁお、Aランクか。ってことはかなり凄いやつだな?俺よりランク4つも上だ。こりゃあもうビッくらポンですよ。


クーリ「じゃ、俺に着いてきてよ。今から試験を始めるからさ。具体的な説明は現地で話すよ。あっ、ちなみに他にも試験受ける子はいるから今からその子たちも回収しに行くからねー。」


傑「りょ、了解しましたー!」


あっ、やっぱり試験するのって俺だけじゃないんだな。そりゃそっか。1人昇格するのに一々試験官を呼ばなきゃいけないのはめんどいもんな。複数人まとめてやった方が楽よな。


そんなことを思いながらクーリの後をドラ〇エの仲間が如く付かず離れずの精神で着いていった



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《ミールの森》


クーリ「はい!到着したよー。えーっと、今から君たちにはこの森の中で俺がサポートについた状態で魔物と戦う上でどんな風に貢献できるのかを見せてもらうね。」


今現在懐かしの森に来てテンションが落ち込んでるござる。非常ショック。ここ良い思い出無いんだよな。もー、泣きたくなりますね。


クーリ「えー、試験始める前に君たちには自己紹介をしてもらうね。冒険者は横のつながりが大事な職業なので今のうち知り合いを増やしておくといいよ。もしかしたらパーティとか組んだりするかもだしね。名前、得意なこと、あとは夢でも語ってよ。」


そういうと日本人はだいたい嫌いな自己紹介タイムが始まった。俺を含めて今回試験を受けるのは5名。男3:女2ってところだ。


さて、どうしたものか。正直魔物退治よりもこっちが鬼門だ。ここをどう上手く切り抜けられるかそれが明暗を分ける。いかにいいタイミングで声をあげられるか。最初と最後は地獄。




?「あ〜、僕から話してもいいかな?」


まず最初に声をあげたのは空のような澄んだ青い髪をした清潔感溢れる美男子。


シアン「僕の名前は【シアン】。得意なことは剣を扱うことかな。夢はそうだね……色んなところを旅して回ることかな。」


?「じゃあ次は俺だな!」


シアンの次に声を上げたのはヤンチャそうな赤髪の男。


テオ「俺の名前は【テオ】。得意なことは相手をこの拳でぶっ飛ばすことだ!夢は世界に俺の強さを轟かせることだ!」


おぉ……なかなかパワーを感じるやつだな。よし!じゃあそろそろ言おうかな!


傑「じゃ……


?「次は私でいいかしら?」


俺の言葉をかき消すように喋り始めたのは黒髪ロングヘアの美少女。


リア「私の名前は【リア】。得意なことは魔法を使うことよ。夢……というか目標は魔法を研究することよ。」


な、なるほど。クール系の子かっ……つ、次話さなければ最後という圧倒的プレッシャーに押しつぶされる!俺!声を上げるんだ!


傑「あっ、じゃぁ……


?「それじゃあ次は私が自己紹介するね!」


俺が話そうとしたタイミングで話し始めたのは茶髪ショートの元気が良い美少女。


メルナ「私の名前は【メルナ】だよ!。得意なことは回復系の魔法かな。夢は色んな人を助けること!」


そ、そうなんだァ。だいたい君たちのことはわかったんだけどぉ……なんで俺が話そうとするタイミングで話し始めるのかなぁ?


はぁぁ……最悪だ。最後になっちまった。

まぁ、ギャグとかは狙わなくていいから自己紹介は普通にそれとなく。


傑「あ〜、じゃあ自己紹介します。俺の名前は【傑】です。得意なことは逃げること。夢は世界平和。よろしくお願いします。」


まぁこんなもんだろ。我ながらかなり普通に自己紹介できたことを誇りに思うね。いつもなら何か変なことを喋ったりしたりしたからな。思い出したくない過去だ。


クーリ「よし自己紹介は一旦こんな感じで終わりだね。もっと個人について知りたいなら試験が終わったあと本人に聞いてね。じゃあ森の中入るよ。」


そういうとクーリは森の中に歩を進めた。俺たちはそれついて行くように森の中に入っていった。



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クーリ「よし。このくらいならそこまで強い魔物も出ないかな。出るにしてもスライムとかウルフとかか。」


俺たちは森の入口から少し奥に進んだ辺りまで歩いてきた。少し前までここにいたからすごい懐かしい気分がする。


クーリ「……おっ、そんなこと言ってたら出たよ。君たち戦闘態勢に入るんだ。」


クーリの目線の先には5匹のウルフがいた。俺達もそれを視認した瞬間、戦闘態勢に移行した。


傑「ごぉ〜?……多くないっすか?」


テオ「なんだお前、怖気付いてるのかぁ?それならそこビクビク震えて俺の活躍を見てやがれ!」


クーリ「威勢がいいね!じゃあまずはテオくんから戦闘を始めようか。とりあえず1vs1の状況作るために1匹残して捕まえようかな。基礎魔法ベースマジック拘束バインド】」


クーリがウルフに向かって手をかざすとクーリの手のひらから複数の鎖がウルフ4匹を即座に捕え、がんじがらめにする。


残された一匹は仲間を捕らえられた怒りからか低い唸り声を上げてこっちに向かって勢いよく突撃してくる。


テオ「5匹まとめて戦っても勝てたがまぁいいか。とりあえずあの犬っころをシバいてやるぜ!……すぅぅ……はぁぁ……ふんっ!【爆打撃バーストブロー】!」


テオは素早い動きでウルフの近くまで寄り、そして自身の拳をウルフに直撃させる。すると殴った場所が爆発したかのように破裂し、ウルフは絶命した。


シアン「すごいな。辺りに肉片が飛び散るほどの威力か……」


傑「わぁぁ……グッロ……ドン引きぃ。なんだよあの技、殴ったところが破裂したぞ?」


イフ『確かあれは【魔闘技マジックアーツ】だね。覚えてる限りではあの技は殴った箇所に魔力の塊を作ってはじけさせる感じだった気がするよ。』


【魔闘技の解説】

・体や武器に魔力を纏わせ、自身がイメージした魔法を叩きつける必殺技。


クーリ「おみごと!とりあえずテオくんは合格かな。じゃあ次のやつ解放するから次はシアンくんが戦ってみて。」


「グルルルっ……!ガウッ!!!」


シアン「おっかないな。でも確実に倒してみせる。……付与エンチャント魔装マジックウェポン】……行きます!」


シアンは剣に手を添える。すると剣が青白く輝き出した。魔力をまとっているから一回りほど刀身が大きくなったよう見える。そのままこちらに敵意を向けて襲いかかって来ているウルフに突撃し、すれ違いざまに斬り伏せた。


傑「うぉお!かっけぇ!もしかしてあれも魔闘技ってやつ?」


イフ『そうだね。中でも武器に魔力を纏わせる技術は付与エンチャントというよ。彼はまだ未熟だから通常の魔力を纏わせてるだけだけど。もっと練度が上がれば炎の魔力を纏わせて燃え盛る剣とかが出来たりもするよ。』


え〜、何それめっちゃやってみたいんですけど〜。炎の剣とか男のロマンですからねぇ。


クーリ「なかなかやるね。まぁこのくらいの魔物には余裕で勝ってもらわないと合格にはしてあげないんだけどね。命の危険があるから気を引き締めるように。じゃあ次はリアちゃんかな。」


リア「分かりました。……それじゃあこういう感じでいこうかしら。重力魔法グラビティマジック重圧グラデーション】」


リアが手を下に振り下ろすと急にウルフの身体がまるで上から押さえつけられているかのように静止した。


リア「いい子ね。じゃあそのまま大人しくしてなさいよ。トドメは派手に……土魔法アースマジック大地打突グランドストライク】」


リアがそう言うと突然地面が1部浮き上がり、1つの大きな岩へと圧縮していく。その岩の塊を身動きが取れないウルフの上からかなりの勢いで叩きつけた。


傑「うっわぁ……えっぐぅ……岩の下から血が出てるよ。やっばっ……魔法使いとして負けた感がすげぇ。」


シズク「まぁ……スグルもこれから頑張ったらいけるよ。うん。多分3年後とかに。」


クーリ「すごいな。この年齢であの威力が出せるのか……同じ魔法を使う者としては嫉妬しちゃうなぁ。それじゃあ次はメルナちゃん!確か回復魔法が得意なんだよね?じゃあ一旦こうしよっか。」


そう言うとクーリはバックから短剣を取りだし、自身の腕を切りつけた。切りつけた先からは血が溢れ出る。


傑「あぇぇ!?何やってんすか!?」


アンナ「ぇ、えっ?」


クーリ「じゃあ今から俺のこと治してくれるかい?回復魔法使えるならこのくらいの傷は治せるだろうし。」


あっ、そういう事ね。ヒーラーとしての力を確認するって感じか。とはいえいきなり自傷するのはビックリやめてくれませんかね。


アンナ「あっ……わ、分かった!クーリさん腕をこっちに向けて。じゃあ行くよ!回復魔法ヒールマジック治癒キュア】!」


アンナが手を腕の上にかざすとクーリの傷が光に包まれ、即座に傷が塞がっていく。


クーリ「うん、良いね!これなら魔物が倒せなくてもある程度活躍はできそうだね。ついでにウルフも一匹倒しちゃおっか。」


アンナ「じゃあ行くよ!風魔法ウィンドマジック風切ウィンドカッター】!」


アンナがそういうと周りの風が吹き荒れ可視化された刃状の風がウルフを横一線に切り裂いた。


傑「おー。すっごい!風魔法使うとあーなるんだね。なんか風に薄い緑色がついて見えるようになってたね。不思議だねぇ。」


イフ『魔力を帯びたものは色が変わるからね。だから普段目に見えないものでも魔力で生成したものは見えるようになるんだよ。』


へー、なんか今日で色んな知識を蓄えれたな。満足満足!さて、次は俺か。どんなので行こうかな〜。水か火か……


クーリ「アンナも合格だね。今年は良い人材が多いね。じゃあ次で終わりかな?スグルくんそのスライム預かろうか?」


傑「あっ、大丈夫です。こいつも使って戦うんで。さぁ……いざ勝負といこうじゃないか。」


そして最後に解き放たれたウルフと対面する。この1発で俺が合格出来るかが決まると考えると緊張しますねぇ。


傑「勢いよく突っ込んで来てるなぁ!めっちゃ怖いぞこれ。よくみんな冷静に対処出来てんな。やはり日本人と異世界人の差ってやつかね。シズクちょっと水ちょうだい。」


シズク「え〜?あげないとダメー?じゃああげてもいいけど後で魔力ちょうだいね。」


傑「はいはい。分かりましたよ。じゃあ行くか。集中……水魔法アクアマジック水弾アクアバレット】!」


こちらの様子をうかがっているウルフに向かって俺は指を向ける。シズクからの体から拝借した水を凝縮し、高密度の水の弾丸を指先へ作り出す。


傑「狙うは一撃、ヘッドショット!」


俺はウルフの頭部に狙いを定め、あとは勢いのままにぶっぱなした。弾は加速し、見事ウルフの脳天を貫いた。


傑「しゃおらぁっ!見たか!これが実力よォ!1回戦ったことある相手なんてもう敵じゃねぇんだよ。バァーカ!HAHAHA!」


あまりの高揚感にテンションがおかしくなってしまい、完全にヤベェやつの言動をしてしまう。周りから若干引かれてるような気もする。


クーリ「はい!とりあえず君たち全員合格!晴れてCランクに昇格だ。おめでとう!この後は全員でご飯でも食べよっか♪俺の奢りだよ」


「「「「「ありがとうございまーす!」」」」」



さて無事にCランクに昇格することに成功した傑たち。各々の夢を叶え、そしてりっぱな立派な冒険者になることは出来るのだろうか。それは最後まで歩んだ者のみぞ知る。


次回へ続く

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