第5話『脱出』
前回水魔法を習得し、ウルフと呼ばれる魔物を倒すことに成功した傑。
目の前の脅威を粉砕した傑達は無事に森から脱出できるのだろうか?
傑達の活躍をぜひご照覧あれ
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ピチピチッ!
傑「あー、気分はまるで魚のようだ」
現在俺は陸に打ち上げられた魚のように地面で跳ねている。魔力切れで動かない体を無理やり動かそうとしてるが故にこのようなことになっている。
イフ『で、なんで跳ねてるの?コイ○ング?』
なんでコイ○ング知ってんだよ。
傑「このままだと魔物がまた来るかもだろ。だから無理やりピチピチ動いてあそこにある草むらに隠れようとしてんの」
スライム「なんか気持ち悪いね。」
コイツラは俺を馬鹿にしないときが済まないのか?俺に対する扱いに憤りを覚えつつ、先程の戦闘を思い返すことにした。
傑「はぁー……にしてもこの世界だとさっきの狼一匹が雑魚か……それに必死になってる俺……泣けてくるね。」
スライム「本来ウルフは群れで行動する魔物だから今回のウルフは群れからはぐれたヤツだったのかな?」
運が良かったってことか。あの状況でもう何匹か居たら今頃俺は骨までしゃぶられてた訳だな。軽く想像するだけで恐ろしいですな。
スライム「にしてもはね回るくらいならあそこに転がってるウルフの魔力を吸収したらいいのに」
傑「ん?」
……きゅうしゅう?……吸しゅう?……九州?
傑「お前何を言っている?」
イフ『あー……そういえば伝えるの忘れてたね。
せっかくだしここでイフ先生のありがたい授業をしてあげよう!』
簡潔に説明しろよなー。俺の頭が悪いんだ。
イフ『まずこの世界の生物は魔力を体内に宿している。それは覚えたよね。』
傑「もちろん覚えてるよ」
スライム「誰と話してるの?」
傑「お前には関係ない話だよ。素人は黙ってなさい」
俺がそう言うと喋り方が気に障ったのかスライムが助走をつけて俺の顔に体当たりをぶちかましてくる。
傑「ぶべらっ!!」
こいつ!俺が動けないことを良いことに好き勝手しやがって……!
イフ『……話戻すけど、とりあえず生物が保有してる魔力ってのはその生物の生命活動が停止すると心臓部分に集中して凝縮されて塊として形成されるの。
これが君の世界の小説とかで出てくる【魔石】ってやつだね。その生物の保有していた魔力量で大きさは決まるよ。』
傑「それは理解したけど、で?それでどう吸収すんの?」
イフ『食べるんだよ。魔石は硬そうな見た目してるけど案外噛み砕けるんだよね。それで体内に取り込むと魔石に含まれてる魔力分だけ回復するの。あとは自分より強い存在の魔石を吸収すると自身の魔力量が増えるよ。』
傑「なるほどこれがこの世界におけるレベルアップの手段か。……ちなみに何味?」
日本人たるもの最初に気になるところはやはり味よな。酷い味だったらシャレにならんからな。
イフ『無味無臭。なんの味もしないよ。』
氷食うみたいなもんか。
傑「おーいスライムくーん。そのウルフの心臓部分にある魔石を引っ張り出してあ〜んしてくれ。」
スライム「あーんって言い方やめてよ。セクハラだよ?」
スライムはそう言いつつもウルフの魔石を抜き出して俺の顔の目の前まで持ってきた。ツンデレかな?
スライム「ほらっ、あーん。」
傑「案外ノッてくれるのね。あーん。」
付き合いたてのカップルみたいなノリだなぁ。と思いながら俺は魔石を口にした。
バリッ!ガリガリッ!!ゴクンッ!
傑「……あ〜。やっぱり冷たくない氷って感じだな。」
イフ『魔石は吸収率が良いからすぐに回復するよ。』
サプリメントかな?そんなことを考えていると突然身体に変化が起きた。先程まで全く動かなかった身体に力が戻ってきた。むしろ先程より体の疲れがなく動きやすい。
イフ『魔力が戻ったついでに魔力量が増えたんだね。
さっきを10としたら今は20とかだろうね。にしてもこの程度の魔物で魔力量が増えるなんて君はよっぽど生物としての格が低いんだろうね。なんか言ってて悲しくなってきたよ。グスンッ(笑)』
う、うぜぇ!なんだコイツ!人が気持ちよくなってんのに煽ってきやがって……!にしても魔力量2倍に増えたのか。
傑「まぁいいや。とりあえず今なら森から脱出できそうな感じがする!いけそうな感じがする!うぉおお!突撃じゃー!」
今ならなんでも出来そうに思えるほど頭が冴え渡ってるぜぇ!!
スライム「ちょっと待ってよ!馬鹿なの!?」
俺はスライムくんに足を引っ掛けられ見事に地面に激突した。
傑「痛ッぁ……な、何してんだテメェ!」
スライム「それはこっちのセリフだよ!もう深夜だよ!あと魔力が回復してテンションがハイになってるだけで体力は回復してないんだから大人しく寝ること!」
おぉ……せ、正論だ。反論余地がねぇ。にしてももう深夜か。この森暗いから朝なのか夜なのか分かりずらいんだよな。
傑「り、了解しました。心配してくれてありがとうスラママ。」
スライム「スラママって何!?」
傑「お前が母親みたいなこと言ったからスライムのママ略してスラママ。」
スライム「やめろぉ!付けるならもっと可愛いのにしてよ!」
傑「え?名前ないの?そういや聞いてなかったな。」
イフ『基本的に名前を付けられてる魔物は少ないね。人間並みの知能を得た魔物なら子供に付けるかもだけど、このスライムくんの親は特段賢いわけでもなさそうだしね。むしろなんでこのスライムくんがこんなに敵対的じゃなくて賢いのかが気になるね。』
そういうもんなのかぁー。それを聞いた俺はカッコつけながらスライムに指を指して提案をした。
傑「じゃあ俺が名付けてやろう!」
スライム「え?いいの!?」
スライムくんは嬉しさのあまり俺の周りぴょんぴょん飛び跳ねている。
傑「そ、そんなに嬉しいものなのか?」
俺はスライムくんの奇行に戸惑っているとイフの言葉が頭に響く。
イフ『名前ってのは自分を表すことが出来るとても大事なものだからね。』
その発言を聞いて納得したと同時に俺は疑問を抱いた。
傑「そーいやイフって神じゃん。誰に名前付けてもらったの?」
イフ『……うーん。結構昔に私にとって大切な人?につけてもらったよ。
その人は今大変そうだから助けてあげたいけど私は神だから無理に干渉できなくなったんだよね。』
傑「ふーん。まぁ、俺がたまたま見かけたらその大変そうなやつを遊びにでも連れ回してやるよ。」
イフ『そうしてくれると大変ありがたいね。……ホントにね』
今のイフの最後の言葉がなんだか懐かしげな声をしてたような気がした。
スライム「で!僕の名前は!」
あっ、忘れてた。名前かー、名前ねぇー
そうだなー。うーん。スライム……アクア……水……あっ!閃いた!
傑「シズク……シズクでどうだ?」
水関連で思いついたぜ!見た目が雨の雫っぽいしな。
シズク「シズク……!うん!僕のことはシズクって呼んでよ!」
傑「あぁ。よろしくな。シズク!」
イフ『頭悪い君にしてはいいネーミングセンスだね。』
それは褒めてんの?貶してんの?
それはそうと……
傑「……あーぁ。疲れたー。とりあえず木の上登って襲われないように寝ますかね……」
俺は木の上によじ登って、背中が痛くなること覚悟で目を閉じた。
傑「おやすみ……」
疲れから俺はものの数分で眠りにつくのであった。
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《朝》
傑「ふわぁあ……んぅ?……もぅ朝か?暗くてよくわかんねぇ……あと背中いてぇ……今日も学校行かなくちゃ……ん?……なんか妙に頭が重い……」
……そういえば俺なんでこんな木の上にいるんだっけ?
イフ『おっはよー!元気かい?』
……そうだ。俺異世界転生してたんだったわ。夢じゃなかったのか。
傑「あれ?シズクは?」
俺が辺りを見回しても昨日出会ったスライムくんが見当たらない
傑「え?見捨てられた?マジぃ!?」
シズク「うるさいっ!もう少し寝かせてよ」
上から声がしたので目線を上げると頭の上にシズクが乗っかっていた。
傑「どおりで頭が重かったわけだ……はよ降りろ!」
シズク「えぇー?まだ寝ててもいいじゃーん。そんなに急ぐのぉー?」
傑「急ぐの!こんなところいち早く脱出したいんだから!」
俺がそういうとシズクは気だるそうに俺の頭から降りていった。
シズク「はいはい……じゃあ森からの脱出再開ね。とりあえず木から降りようか」
俺たちは木から降りると再び歩き始めた。
道中でたまに別のスライムに遭遇したり、毒々しい見た目のキノコを見つけたりしたが、全て魔法で消し炭にしてきた。
傑「魔法昨日よりも連発できるようになってきてるな。魔石ありがたみが身に染みるわぁ」
そうなんこんなで3時間ほど歩き続けると、先程まで木、草、謎の植物だった景色に明らかな変化が起きていた。
傑「……うおぉおおお!光が見えた!間違いない!日の光に違いない!」
ほとんど光が届かないこの森の中であそこまで光が強いということはこの森の外に近いということ!
俺は全力ダッシュでそこを目指して走り込んだ!
傑「これでようやく……脱出じゃあああぁっ!」
俺は勢いよく光目掛けて飛び込んだ!
飛び込んだ先で視界に入ったのは見渡す限りの平原。そして奥に見えるのは明らかに知的生命体が居住してそうなデケェ街。
《【ミールの森】:脱出までかかった時間 約37時間》
傑「…………よ、ヨッシャァアアアアアア!!!ヤッタァアアア!!」
これはゲームクリア!この物語はこれでおしまい!完結!
イフ『いやいや何終わったみたいな感じ出してんの。むしろここからだからね?』
傑「はぁぁ……へいへい分かってますって……魔物の大量発生の原因を解決して、種族の仲を取り持って、環境を修復すりゃあいいんでしょ!?改めて考えても無理じゃね!?」
この先の目標に俺は絶望し、天を仰いでると突然シズクが俺の背中に突撃してきた。
傑「うぉわぁ!?な、何すんだァ!」
驚いた俺は咄嗟に怒鳴ったが、シズクの様子が変なことに気づいた。顔がないからよくは分からないがなんとなく寂しそうな雰囲気をまとっているのが分かった。
シズク「……とりあえず言っておきたいことがあるんだ。」
傑「お、おぅ。」
なんだかお別れの挨拶みたいな感じだな……
シズク「……人間の街に行くなら魔物の僕が行くと多分迷惑になるから……ここでお別れだね……
少しの間だったけど君と一緒に居れて楽しかったよ!
僕はこの森に残るけどもしまた会えたら話しかけてね!
……じゃあまたね!」
シズクは森に向かってゆっくりと歩みを進めた。
イフ『初めての友人?友スライム?との別れは寂しいものだね。』
傑「別れ?お前何言ってんだ?」
俺は森へ向かうシズクに全力ダッシュで追いつき、丸っこい体を勢いよく拾い上げた。
シズク「えっ、えっ!?なになに!?」
傑「お前バカか?お前は貴重な水分補給に使える友達だ。簡単に手放すかよ。街にも何とか誤魔化しつつ連れていくからな!」
シズク「ち、ちょっと待って!?今良い感じに別れたじゃん!良い雰囲気だったじゃん!?
僕良いこと言ったなぁって思ってたのに!無理無理!ここで別れないと恥ずか死する!!」
シズクが俺の腕の中で逃げようと必死で暴れ狂っているが、人間の力にスライム風情が勝てると思うなよ!
傑「うるせぇ!そもそも俺一人じゃあ絶対に目標は達成できねぇんだ!俺は弱いから色んな人達の助けがいるんだ!魔物だろうとお前の力も存分に借りる!!旅は道連れ世は情けだ!」
イフ『ふふっ、見事に巻き込んだね。なんだか面白そうな流れになってきたじゃないか。』
傑「行くぞ!俺たちの伝説の幕開けだァ!ハァーハッハッハァッー!!」
俺は軽快な足取りで街に向かって走り始めた。
今この瞬間1人と1匹と1神の冒険が今始まるのであった。この先どんな仲間に恵まれることになるのだろうか。傑たちの旅の結末とは……今後の傑たちの冒険譚をお楽しみください
次回へ続く
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