30話 : 成果

 オシュテンから重要な情報を手に入れたと知らされた。

 ラメッタとクレーエンは城にある拷問部屋なる部屋に駆けて。

 意外にも血生臭い匂いがなかった。

 どちらかというと花の優しくて甘い香りがする。


「来たね」

「お、おう。オシュテン、何をしておるんじゃ?」

「愛しのラメッタちゃんがたくさん試したいだろうからね、僕はできるだけ傷をつけるべきではないと思ったから。美味しいスイーツを与えて、途中からもっと欲しければと拷問したのさ」

「だから甘いのか」

「僕が思うに、女の子の匂いってこんな感じだろうよ?」

「おぬし、いちいち変態な発言するのはどうしてじゃ。そのせいじゃぞ、おぬしを男だと勘違いしてたのは。このメスガキがあああ!」


 オシュテンが捕らえた魔族は苦しそうに枯れた叫びを繰り返しているが特に外傷はない。

 石を削って作った椅子に縛り付け、ひたすら特製スイーツで拷問し続けたらしかった。


「僕はついに重要なことを聞き出した。僕らが前線で戦っている相手は魔王軍四天王の一人みたいだね。そのうちの幹部が一人、バオム国にいてスパイたちを仕切っている。目的はエアデ王国の陥落だけど、今はバオムの完全制圧。拠点にしてエアデ王国を一気に落とそうとしてるみたい。魔法が十分に使えないこともばれてしまってるみたいだ」


 魔法を使えなくした張本人は小さな肩をびくっと震わせた。

 事情を知っているクレーエンだけがラメッタの反応に気づく。


「そうか、流石オシュテンじゃな。本当によくやった、魔法が使えないことがばれて、それで一気に攻めるつもりなんじゃな。それはそれは、大変じゃな。オシュテン、作戦はあるのか? 魔法が使えないのを知ってるからって攻めてくるかの。卑怯じゃぞ、そんなことしたら、駄目じゃぞ。魔王軍め、あははは」


 ラメッタは壊れた。冷や汗をかいていて、クレーエンから見ても冷気を感じるほどに冷たい。オシュテンはラメッタの様子に気づかない。話に夢中になっていて目の先を見えてはいないだろう。


「僕が褒められちゃった。ラメッタちゃんが言うならすぐにでも作戦を考えるよ、そうだなあ、魔族は馬鹿! ってチラシを作って、みんなで騒ごう。苛立って現れた魔王軍四天王幹部を僕が倒して、えへへへ、これは僕とラメッタちゃんが結婚する日も遅くないな。子供は三人はほしいな、魔道具で女の子同士でもできるようにしなきゃ、そのためにはあらゆる魔道具用の素材を揃えなきゃならないし忙しくなる、けど僕は頑張れるよ、えへへへへ」


 オシュテンは頬をだらしなく緩ませていた。

 椅子に座っている魔族は涎を流しながら白目を向いていて、ラメッタは冷や汗を流して震えている。

 クレーエンは剣を忘れたことを後悔した。

 魔剣さえあればこの混沌とした状況を一瞬にして黙らせることができる。


 と混沌を落ち着かせたのもオシュテンだった。


「そうだね。誘い出すのは得策だ。僕としても一番ましな王族であるディーレ姫が使えなくなるのは困る。王様が生きているかはどうでもいいけど、この状況が続くのはディーレ姫の負担になるね。臆病で自分勝手なベリッヒ姫や幼くて分別もつかないようなチルカ姫なら安心だけど誰よりも責任感が強い姫様だ」

「わしも賛成じゃ。昨日も一緒にジュースを飲んだが。やっぱりスパイのことで辛そうじゃった」

「そっか。僕も誘ってよ」

「オシュテン、おぬしが今までディーレ姫にちょっかいをかけたから、まだまだ怖がっておるぞ!」

「ふーん。そっかあ、僕は怖いか。じゃあ、僕はアジトに戻って休もうかな。って言ったらどうする?」

「おぬし、嫌じゃもう。嫌いじゃ、すぐからかってくるし」


 オシュテンはにこにこしながらラメッタに近づいて、頬をつねった。痺れるような痛みにラメッタは顔を歪ませる。その表情を見て満足したのか、オシュテンはラメッタの頭をぽんぽんと叩いて。


 女の子の頭を気軽に触るなって知らぬのか?


 ラメッタは機嫌が悪くなったが。傍若無人なオシュテンがいくらラメッタに惚れているとはいえ、律することもできず。オシュテンはじっと小動物を狩る鳥のような殺意と遊び心が混じったような狂気の視線を向ける。


「冗談だ。ラメッタちゃんは頭がいいね。その通り、僕はオシュテン派のリーダーだ、このバオム国で生きている人間だ。頼まれなくても魔王軍だろうが何だろうが僕たちの国で好き勝手するやつは許さないよ。ラメッタちゃんたちも協力してくれるならその機会を逃すわけもない。あ、ちょうどラメッタちゃんはかわいいし。一緒に魔族を煽ろう」

「もっと説明しろ、オシュテン」

「魔族がいるって知ってるよ? と伝えればいい。乱れた社会で生きてきたんだ、もう少しで平和が手に入るなら、魔族が潜伏しているって聞いて判断を失うような馬鹿じゃない。だができれば匂わせるだけだ。不安を煽る、裏では魔族を捉える準備が進んでいるってね」

「つまり?」

「歌って踊ろう、ラメッタちゃん。魔族のくそどもを誘い出す」


 ラメッタは首を傾げる。


「何言ってるんじゃ?」

「ラメッタちゃんはね、僕に言われるがままにしててね。第一回統一祭、とでも名付ければいい。曲も踊りも僕が作る。どうかな?」

「うん、分からんが」

「それでいい。僕は分からないけど歌って踊るラメッタちゃんが見たいんだ」

「おぬし性格が悪いって言われない?」

「誉め言葉だね」

「耳にくそが詰まってない?」

「よく掃除してるよ」

「ええい、分かった。ディーレ姫のためじゃ、バオム国のためってのは本当だろうし信じるぞ」

「任されました。疲れたね、はいケーキ」

「美味しそうじゃな。もらおう」

「僕が作ったんだよ?」


 オシュテンはニヤニヤしている。

 ラメッタは気にせずケーキを頬張った。フルーツの酸味とスポンジのふわふわ感、さとうたっぷりのクリーム。手を頬に添えなければ溶け出てしまいそうなほどの多幸感であったが。


「キイイ」


 金属同士が擦れ合うような不快な音が響く。

 ラメッタが振り返ると、そこには涙が止まらない魔族がいた。

 察した。オシュテンが嬉しそうに見てきたのは、これが拷問用のお預けスイーツだったからだ。屍のような魔族は最後の力を振り絞って。


「キエエエエエエエエエエッ!」


 何よりも欲しかったスイーツの消滅に断末魔を上げる。

 想定よりも大きな叫びに、ラメッタは。

 白目を向いて気絶するのだった。





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